「入試がないならウチの子を」

「センセ、アメリカの大学には入学試験がないそうですね。でしたらうちの息子を、ぜひセンセの大学の医学部に入れてあげてください」というリクエストが“お受験ママ”からきた。今のニッポン人は、身内に「あげる」という表現を使って恥じない。自分の倅だろう。なぜ「やる」と言わぬ。この使い分けが出来ない者は、強要に欠けると言われて育った。昔の教えに従うなら、いまはニッポン中が強要を欠いているといえる。

「あげる」に虫唾が走ったからというわけではないが、おっかさん、その頼みは聞くわけにはいかぬ。アメリカで医学部に入るには、まず4年制の普通の大学を優等な成績で卒業することだ。医学部入学はその成績で決まる。医師や法律家は頭を使う職業だから、生涯学習が大事である。知的好奇心に富み、勉強が好きで、考える人間でなければ勤まらない。医学部も法学部も入学試験はしない代わりに、勉強地獄の大学4年間を耐え抜いて、優れた成績を残した事実を評価する。

ニッポンでは医学部に高校からいきなり入る。入学した後「しまった、ボクは医者にはなりたくない」と思っても後の祭り。世間は医学部中退を受け入れてくれるほど甘くはないから、いやいやながら、卒業して医者になる。こんないい加減な動機で医者になった人間に診てもらう患者は気の毒というほかない。いま、医療事故の多発が問題化している根源はこのあたりにある。

高校までの学習成果を競い合わせるのが、ニッポンの大学の入学試験である。一旦この難関を通過すると、勉強しなくても卒業はできる。だから、大学は本当に教育をしているのか、と疑われる。

アメリカの大学人は、大学教育の課程で学生を評価選別し、優れたものだけを社会に送り出すのが使命と認識している。入試をしないのは、こういうワケがある。

(出典: デイリースポーツ)

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