単身赴任

「ニッポンでは、仕事の都合で夫婦が別れて暮らすのは、普通なのだそうですね」

妻子を残して研究に来たQ君の書類を見ながら、秘書のリンダがため息をつく。

「奥さんもドクターで、トウキョウでの研究がヤマ場に差し掛かっているから、一緒に来られなかったのだ」
「ドクターのようにプロフェッショナルな人たちの事情は、アメリカでも同じですから理解できます。でも、会社や役所に勤める普通の人が転勤になった場合、ニッポンの奥さんは、一緒に行かないで別居すると聞きました。これには特別なワケがあるのですか」
「自分の仕事、子どもの学校、家のローン、亭主の転勤先が気に入らないなど、理由は様々だね」
「アメリカ人の夫婦は、半年別居すると90パーセントが離婚します」
「深刻だね」
「わたしなら、たとえ主人の転勤先がアラスカの小村であっても、絶対に付いて行きますわ」
「アラスカは寒いよ」
「寒さ暑さなど平気です。結婚以来、毎日互いの愛を確かめあって、今日まで来たのですから」
「毎日、愛を確認し合うと疲れるだろうに」
「結婚はそれほど重大で深刻なものです。ダーリンに単身赴任をさせて平気でいるニッポンの奥さん達、結婚と言う人生の一大事を、真剣に考えていらっしゃるのかしら」
「ニッポンの並の男は器量が狭いから、仕事にかまけて、カミさんはほったらかし。だから、カミさんは、亭主が単身赴任すると、これ幸いとばかりに、ヨン様にトチ狂うのです」
「それは偽りの人生ですわ」

偽りの人生も束の間。やがて定年がきて、命より大事にしてきた仕事を取り上げられた亭主は抜け殻同然。「これからは、お前にサービスするよ」とカミさんの方を向いたとたん、「今更なによ」と捨てられる熟年男が増えている。

日ごと愛の確認を怠った罰ですな。

(出典: デイリースポーツ)

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