緒方貞子さんのトイレ

10日ほど前、ニッポンに着いてすぐ買った週刊誌の、「国際協力事業団(JICA)のトップレディである緒方貞子さんが、理事長室に専用トイレを新設したのがけしからぬ」という記事を読んで仰天した。国際協力事業団という公的団体のトップが、自分だけの専用トイレを公費で造らせるのは無駄遣いだ、ローカひとつ隔てた一般職員のトイレを使えば済むことではないのか、という主旨の記事だった。

アイオワ大学病院に勤める各科幹部のオフィスは、役職によって仕様の違う個室である。外科教授に昇進したときには、準教授時代より数平米広くて快適な個室を貰い感激した。小児外科部長に昇進し、職員を束ねて科を仕切る役目につくと、さらに一段と広い部屋を貰った。

幾つかのセクションを束ねるディビジョンのトップには、トイレつきの個室を与えるという院内規定がある。友人の外科教授がディビジョンの長に昇進したが、生憎トイレつきの特大個室には空きがなかった。そこで病院は、通常の個室二つの隔壁を取り払い、一つの特大個室にし、トイレを新設して、新しいディビジョンの長に与えたが、だれも無駄とは言わなかった。これで驚くのはまだ早い。外科全体を仕切る主任教授の個室には、トイレのほかにシャワーもついているのだ。

日本独特の平等至上主義を信望する御仁にとっては不快だろうが、米国の大学や団体では、オフィスの広さや設備は、持ち主の立場や裁量の大きさを推し測る重要な目安として、社会に定着している。

緒方貞子さんは国の国際事業団体であるJICAの最高責任者である。JICAのトップは日常的に各国要人の訪問を受ける。要人訪問客は、最高責任者のオフィスに迎えるのが国際常識である。面談の時間が長引けば、要人といえども、用足しをしたくなる。そうした場合、一国の大臣を「ローカの先のトイレにどうぞ」と案内しますか?すれば、それはニッポンの恥ですぞ。

(出典: デイリースポーツ)

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