280万平米の零細農家

本州の3分の2ほどの広さを持つアイオワ州で、一面にひろがる肥沃な農地をフルに活用すると、全米が1年に消費する食牛6千万頭を養う飼料のすべてを賄う余裕があるという。

秘書のリンダが家業は農業だというから、「畑はどれぐらいの大きさなの?」と尋ねてみると、「7百エーカーの零細農家ですよ」という返事だった。ちょっと待てよ。1エーカーは4千平米だ。7百エーカーというと、280万平米の大地主ではないか。百メートル四方が1万平米、その280倍と言い換えれば、見当がつくだろう。それで零細農家なら、ニッポンの農家はなんと表現する。

名物のコーンで育てたアイオワビーフは当地の自慢である。他州にもその名の高い名門ステーキハウスのラークでは、自家の牧場で育てた牛の肉だけを使ってステーキを焼く。セミナー受講生全員を、その高名なラークに案内した。

「20年前、西海岸のS市に留学中に市内の食堂で食べたステーキは、大きくて、硬くて、まずかった。食べ終えたら、哀しさと切なさに、郷愁の涙が湧いてきたほどだ。S君、悪いことは言わん。一番小さいのを二人で分けようや。それでも、食べきれるかどうかわからんよ」

Z氏の滞米経験談は、同行の若いS氏のステーキに弾んだ気持ちに、水を差す。先輩の経験談に押し切られたS氏は、小さなフィレ一片を二人で分けるのに、不本意ながら同意した。

ステーキがテーブルに並ぶのを待ちかねたかのように、一斉にナイフとフォークが動きはじめる。そこでZ氏、開口一番、
 「あ、これは違う。旨い」
 「センセ、こんなに旨いステーキを半分づつとは、殺生ですよ」

食い物の恨みは怖いよと詰め寄るS氏に、
「済まんのう。わしは間違うとった。アメリカにも、旨いもんはあるもんじゃのう」

アメリカの食堂とステーキハウスには、めし屋と料亭ほどの違いがあるのをお忘れめさるな。

(出典: デイリースポーツ)

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