郷に入れば、郷に従え

或る日、ワイキキの外れにあるフランス料理のミシェルにテーブルを予約し、ハワイを離れる友人と別れのディナーを共にした。席について見回すと、テーブルの殆どは熟年の白人紳士淑女。殿方は、アロハシャツに長ズボン。奥方はロングドレスかムウムウというお召し物。ウェイター、ウエイトレスは全員がブラックタイのタキシード姿。

その中で、ひときわ浮いているのが、TシャツにGパン姿、二十歳を出たばかりのニッポン女性二人連れだった。場違いな感は免れない。そのうち、二人ともサラダプレートを左手で口まで持ち上げ、右手のフォークでかき込みはじめた。お嬢さん、それはまずいよ。みんな、びっくりして見ているよ。

他に教えてくれる人間がいないようだから、このコラムで教えて進ぜよう。

想像するに、ガイドブックか電話帳でミシェルの名前を見つけ、「ハワイ旅行の思い出作りのために、一度ぐらいは、超一流のレストランで晩御飯たべてみようよ」という会話があったのだろう。そして実行した。キミらの物怖じしないガッツは素晴らしい。賞賛する。だが、夜のディナーにTシャツにGパンは駄目だ。銀座や梅田のレストランの食事に、Tシャツで出かけはしないだろう。誰かが「ハワイはどこでも、TシャツとGパンでOK」といったかも知れぬが、それは昼間の話だ。

アメリカの大人の世界には、日中と夜とで服装ばかりか、交わす会話の話題まで分別する鬱陶しさがある。だが、これは習慣というもの。ほら、郷に入れば郷に従えというだろ。

次にハワイに来るときには、ドレスを一着持参し、予約の要るレストランに行くときに必ず身につけること。それと、今度、キミたちが店中の注目を浴びた、左手でお皿を口元まで持ち上げる悪い癖も治しておくことだ。そうすれば、ハワイをもっとエンジョイできること間違いなし。

(出典: デイリースポーツ)

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