マーサスチュアート

9月15日から3ヶ月間の予定で沖縄に滞在中である。ホノルルから那覇までの機中で読んだ新聞に、興味をひく記事を見つけた。

マーサスチュアート(64歳)は、「家庭の暮らしのノウハウなら、わたしに任せて」とばかりに、テレビにレギュラー番組を持つほか、用品販売や出版会社を手広く経営し、全米で知らぬ人なしという超セレブのビジネスウーマンだ。その彼女が、株のインサイダー取引を隠蔽したかどで有罪となった。刑期の5ヶ月を刑務所で、残りの6ヶ月を自宅で服役した。自宅服役中は、数万坪の自宅敷地から一歩でも踏み出すと、たちまち刑務所に逆戻りだ。超小型発信機を鎖で足首に括り付けられ、衛星ナビゲーターを通して、四六時中現在位置を監視される暮らしは、さぞや辛かったことだろう。

その自宅服役も9月1日に満期となり、晴れて市民としての権利を回復したマーサは、3週間後にはテレビのレギュラー番組に復帰、企画中の自伝の映画化には、本人が出演するという。法にすべてを委ねるアメリカの市民感覚では、刑を終えれば普通の市民だから、テレビに出て違和感はない。

だが、これをニッポンに置き換えると、それだけでは済まない。法の定めた刑のほかに、「世間を騒がせた」ことに対し、「謹慎している態度」を見せ、「改悛の情」が認められるまで、テレビに出るのは勿論、市民としての活動をしてはならぬという、世間が定めた私設不定刑を科せられる。私設不定刑には、コレという刑期が決っていないので始末が悪い。

トウキョウの本社で起きた不祥事に対する私設不定刑がハワイの子会社にまで及んで、毎月の社内ゴルフコンペを自粛させられた例では、アメリカンの間にニッポン異質論が沸き起こった。判断を情にすがる国内情勢と、法に委ねる国際常識の狭間に立って、ニッポンのビジネスは苦悶する。

(出典: デイリースポーツ)

海外からみた今度の選挙

今度の選挙は、ホノルルの我が家でテレビを見ただけだったが、なかなか面白かった。ライフワークとする郵政民営化法案が参院で一部自民党員の反逆により否決されるや、小泉首相は、間髪おかぬ衆院解散、反逆派に対しては非公認、有力対抗馬の擁立、選挙後の党籍剥奪など、迅速、明確でスジの通った決断を下した。その手法は、あたかも熟練外科医の手術のような鮮やかさだった。選挙中は、争点を郵政民営化の是非に絞ったのも効を奏した。

1993年の選挙直後、自民党と社会党が野合して出来た村山内閣に世界は唖然とした。この野合は、信条の違う両党それぞれに期待をかけて投票した国民を欺くものだった。野合するなら、もう一度解散し、選挙で民意を問い直すべきだった。以来、政党は都合のために信を裏切る集団として、国民の信頼を失った。

今度の解散で、小泉首相は強い党首としてスジを通し国民の信を取り戻した。従来の首相なら派閥実力者の顔色を伺い、解散の決断を下さなかったことだろう。それと比べると、なんとも心地よい行動だった。党規に反するものは切るという歴史的な決断に、国民は喝采した。「自民党をぶっ潰す」という首相就任時の言葉を、有言実行したのだから人気が上がらない筈がない。かくして自民党は大勝した。

それと対照的に民社党は大敗した。交代で政権を担うアメリカの共和、民主の2大政党と比べると、ニッポンの第2党である民社党は、政権交代するには準備が足りない。マニフェストは総花的で現実味がない。党内にイデオロギーの違うグループを抱えているかぎり政権担当は困難だろう。

新リーダーに選ばれた前原党首の仕事は、民主党を、同一のゴールを目指す組織集団に再編成することだ。小泉首相が郵政民営化法案否決に対して決断し実行した勇気を、国民もアメリカンも、あなたに期待している。

(出典: デイリースポーツ)

ハワイの観光客さまざま

今年の6月、ハワイを訪れた観光客は1ヶ月で65万人に達した。このペースでいくと今年は、過去最高の年間750万人を超えるという。8割弱が米国本土のアメリカン、2割弱がニッポン人、残りが世界各地という比率だ。嫌日の某国を嫌うニッポン人の間では、安全で清潔なハワイが再び人気を回復している。

アメリカンがハワイを選ぶ理由は、なんといっても安全第一。国外への旅は、連続航空機事故やテロの危険がある故、嫌われる。ハワイは国内でありながら異文化社会だから、東洋のエキゾチシズムが魅力だ。

アメリカンのハワイ滞在は平均10日間。ニッポン人はその半分の5日間だが、ハワイに落とすカネの額はアメリカンの2倍だ。観光収入に経済を依存するハワイでは、気前の好いニッポン人は大歓迎だ。

ニッポン人はホノルルに着くと、まずは下見。いざ買い物を始めると、すさまじいショッピング魂は帰国の直前までハイフィーバー。「高い航空運賃を払ってハワイに来たのだから、リゾートライフも楽しんだら?」やんわり忠言すると、「いいんです。ほっといてください!」女性のこのセリフに追い討ちは禁物だ。

或る時、知人の新婚カップルに「ハッピーかい?」と尋ねたら、「お買い物が順調に進んでハッピーです」と言う。見せてくれた買い物リストは、仲人、同僚、友人など数十人への祝い返しがびっしり。蜜月ならぬ苦行旅行だ。これが成田離婚の一因とみた。

義理掛け習慣のないアメリカンがハワイで過ごす時間のすべては自分のもの。ホテルにチェックインすると、すぐ裸になって、新婚カップルはそのままベッドイン。それ以外の者は、ワイキキビーチで蒼い空、澄んだ空気、白い砂浜、エメラルドの海を満喫する。いずれもタダのものばかり。アメリカンがハワイにカネを落とさぬワケは、ここにありだ。

(出典: デイリースポーツ)

ハリケーン「カトリーナ」

史上最大のハリケーン「カトリーナ」は、8月29日、ニューオーリンズ市を直撃した。市長は、直撃の2日前に、全市に避難勧告を出した。だが脱出するにはクルマが要る。避難先での宿泊や飲食にはカネも要る。クルマとカネのない貧者は、仕方なく市内に留まった。

風速75メートルの烈風はビルの窓ガラスを粉砕し、住宅をなぎ倒した。海抜がマイナスのニューオーリンズ市を護る堤防は決壊し全市が水没、多数の死者がでた。生存者はハイウエーなど高所に移動し救援の到来を待った。水、食料、薬品を求めてひたすら待ったが、救援は来ない。救援物資を載せた陸軍のトラックが市内の避難所に初めて到着したのは、5日も後のことだった。

ぶち切れた市長は、テレビで「救援の空約束はもう結構。会議や会見の前に早く手を打て」と、大統領に向かって絶叫した。

民主党の女性州知事は、州兵に緊急出動命令を下さず、大統領に救援の要請もしなかった。州兵の指揮権は連邦政府に譲らぬと頑張る。今風に言うと、頭の中真っ白で固まってしまったのだろう。

黒人ラップ歌手は、テレビで「大統領は被災者が黒人だから放置する」と発言、救援遅延から起きた人種差別議論が全米を揺るがせた。

4日目、初めて被災地を訪れた大統領は「十分手は打ったが、結果には満足していない」という歯切れのわるいコメントをした。そのウラには、州知事が大統領に救援要請をしないことへの、非難が込められている。

当事者たちの責任のなすり会いに、アメリカ国民はうんざり。全米を代表する識者たちが、今度の救援遅延を「アメリカの恥」だの「アフリカ以下のアメリカ」などと自嘲するのは、役人特有のことなかれ主義に対してだ。

10年前の震災時の神戸でも、当事者間で責任のなすり合いがあったのだろうかと、いま、想いを馳せる。

(出典: デイリースポーツ)

不祥事

「ニッポン人は、当人の裁量範囲外のことで責任を取ったり、取らせたりするのが好きだね。こんな連帯責任制度は、アメリカにはないよ」

高校野球不祥事をアメリカンに解説すると、こんな言葉が返ってきた。

今年の甲子園大会は、開会直前に明るみに出た部員の暴力によって、代表に決まっていた高校の出場が取り消された。大会主催者は、選手間の暴力とその報告の遅延に隠蔽の意図ありとみて、厳しい断を下した。甲子園出場を夢見てきた部員は、この世の不条理と無情を体験した。

大会終了を待ちかねたように、優勝チームの野球部長が2ヶ月まえに選手に加えた暴力行為が、表沙汰になった。「父兄からの要請によって、今日まで不祥事の発表を延期した」と、テレビ会見で言い訳する校長は、まるで遠山の金さんの前に引き出された悪徳商人の姿だった。優勝の取り消しを避けるためなら、隠蔽、責任転嫁、その他何でもいたします、という卑屈さが見られる。正義を規範の礎とする教育者の誇りは見えない。

「選手の気持ちを思えば、出場取り消しは忍び難いので、自分の一存で隠し通してきた。全責任を取って校長を辞職するから、選手は責めないでくれ」といえば男を上げたのに、その器量はない。

学校側と暴行を受けた選手の父兄の間でシャンシャンと手打ちが行われ、「暴行は部長の仕業、選手は不関与、隠蔽はお咎めなし、優勝の取り消しもなし」という予想通りの筋書きで決着した。

「ハナシを聞いていると、大会主催者は『みんな良い子にしていろよ、さもなければ、連帯責任だぞ』という脅しに、高校野球の教育的意義があると考えているようだ。だが、どの学校にも悪い子がいるのが現実だ。脅しは、現実の偽装、隠蔽、虚偽申告を、かえって奨励するのではないか?」

このアメリカンは、ニッポン文化の矛盾を熟知している。

(出典: デイリースポーツ)