ただ今、ハワイも“鍋に熱燗”

「ハワイがこんなに寒いと、詐欺に会うたような気分でんな。常夏のハワイが聞いてあきれまっせ」

ホノルルに着いたばかりの大阪の人が、カーディガンの襟を合わせながらぼやく。今年のハワイは5年ぶりの冷気におおわれ、明け方は14度、日中でも24度ぐらいの日が続いている。丁度ニッポンの10月ぐらいの気候だ。

「これほど肌寒いと、トリの水炊きかなんかで熱燗をちくっと一杯やりたいですね」
「同感、同感。ハワイで鍋やなんてめったにおまへん。それも粋でよろしいな」意見がまとまり、さっそく居酒屋で鍋をつつくことになった。鍋といえば日本酒。いつものように熱燗を注文すると、
「あれ、センセは熱燗でっか。レトロですね。いまは冷酒の時代でっせ」
「冷酒をレイシュと気取った呼び方をせずに、冷や酒と読んでごらん。むさくるしい素浪人が欠けた湯飲み茶碗であおる酒のイメージが湧くでしょう。そうして酒を呑む者を、わたしは罰当たりと呼んでいます」
「ほたら、ワシらみな罰当たりでっか」冷酒ロックのグラスを手に逆襲してくる。
「その通り。杜氏が十重二十重に手を掛けて造った大事な酒ですから、冒涜するような呑み方をしてはいけません」
「罰当たりといわれても、冷酒ロックは旨いのです。しかし、センセはこのあとクルマを運転してお帰りでしょ。飲酒運転でつかまりまっせ」
「それはニッポンでのこと。アメリカではどこの州でも、ワイン、水割り、ビールは一杯までなら飲んで運転してもいいと交通法規に明記しています。酔払い運転はいけないが、酒気帯び運転はオーケイなのです」
「センセ、その酒2本目でっせ。大丈夫でっか」
「ホノルル警察は片足でちゃんと立てたら酒酔いでないと判断するそうです。ほら、立てるでしょ」
「ニッポンなら即罰金30万円でっせ。国によって常識はこないにも違うんですな」

(出典: デイリースポーツ)

ガン治療はこれでいいのか?

「大学病院でガンと診断されたのですが、手術は2ヶ月先になるとドクターにいわれました。センセ、大丈夫でしょうか?」

ニッポンからの電話は声が上ずっている。大丈夫ではないが、相手の切羽詰った気持を思うと駄目だとは言えない。医者がガンと診断しながら、治療は2ヶ月先だと、よく平然と言うものだ。最近、ニッポンの病院を訪れてみると、そこここの壁に「われわれは患者様のためにベストを尽くします」という理念を掛けている。現状は有言不実行なのではないか。この理念を本気で貫く気持があるなら、診断と治療の間隔を縮める努力をなぜしない。

わがアイオワ大学病院では、毎年3600人の新しいガン患者を治療する。すべての患者は院内の「ガン治療センター」で登録し、ガン治療専門医の診察をうける。それがガン治療のはじまりだ。手術が必要な場合には、その日のうちに外科を受診、数日以内に手術を受ける。手術と前後しガン治療専門医の主導による化学療法や放射線治療が始められる。このシステムの導入のウラには、万人が納得するワケがある。

患者が病院を訪れるのは検査を受けるためではない。1日も早くガンの治療をうけて長生きするためだ。ならば治療を最優先するのが道理ではないか。外科、内科、放射線科など複数科が関与するガン治療では、指揮者を欠くと、船頭多くして、舟、山に登ってしまう。だからガン治療専門医に指揮をとらせたらよい。これらを勘案し、患者にとって最善を探索した結果が、院内「ガン治療センター」なのだ。

「ガンの手術をするのは外科医だから、化学療法も放射線療法も外科医が主導して当然だ」という議論がニッポンにはある。これは医療先進国では30年以上も前の議論だ。
「患者にとって最善の治療とはなにか」という基点で考えれば、ガン治療の問題はおのずと解決する。

(出典: デイリースポーツ)

捏造論文

去年、韓国ソウル大学でヒトクローン胚からES細胞の作成に成功と発表された研究が、実は偽造データによる捏造論文と判明した。ほぼ同じころ、東京大学で開発した遺伝子工学技術も捏造論文と判断された。データがホンモノであれば両研究とも、世界初の偉業となるところだった。以前、米国のハーバード大学でも捏造論文が出たことがあった。米国では、捏造論文の著者全員を大学から放逐し、研究者としての復帰を許さぬという厳しい罰を科す。

研究者たちはなぜデータを捏造するのか。筆者の独断と偏見によって推察してみることにしよう。

研究は、発案者と実行者がチームを組んでプロジェクトを推進する。教授のアイデアを助手や大学院生が実験により実証するという具合にだ。研究成果は論文に書いて発表する。論文の優劣はインパクト係数と呼ぶ数値で判定される。係数の高い論文を頻発する大学は文科省の覚えめでたく、著者はよいポジションや多額の研究費を獲得する。学内での出世も早い。世界初と呼ばれる偉業も、下世話のところ、こうした低次元のインセンティブが研究推進の原動力なのだ。

教授の日常は殺人的に多忙である。だから実験データの収集は、部下の助手や院生に丸投げする。

論文発表の期日がせまると、教授は「○○君、データはまだか。月末までに目鼻はつかないか」と部下をせかせる。部下にとっては、自分の将来の鍵を握る教授の頼みは絶対だ。つい、何とかしますと空手形を切る。約束はしたけれど願望と現実はすりあわぬ。期日が来てもデータはそろわない。つい魔がさして捏造するというシナリオだ。

論文は、著者全員が栄誉を分かつ権利と同時に責任も分担する。捏造論文に名を連ねたからには、知らぬ存ぜぬでは済まされぬ。こんど捏造論文に関係した大学は、いま自浄能力を問われる正念場にたっている。

(出典: デイリースポーツ)

耐震偽装被害も保険があれば

耐震偽装事件の被害者たちは、折角手に入れたマイホームから立ち退かされたうえ、建て直しには更なる巨額の出費という二重の苦難に悩んでいる。このハナシをアメリカンたちにぶっつけてみた。すると異口同音に、「マンションを買うまえに、業者が保険に入っているかどうか、なぜ調べなかったの」という声が返ってきた。

ホノルルの電話帳で建築業を開いてみると、許可番号のほかに“保険加入”を明記している業者が多い。施工が依頼主の意向に添わずやり直しになった場合には、その費用を保険でカバーするという意味だから、安心して施工を任せられるという証になる。

ヒューザーも木村建設も、この保険に加入していたら、こんどの建て替えの費用をカバーできたであろう。こうした保険がニッポンにあればのはなしだが。

「業者は保険に入っていませんでした。他に何か救済策はありませんか」
「マンションの住民組合が加入している保険はカバーしないのですか」

住民組合加入の保険を、いま住んでいるマンションを例にとって説明すると、わがマンション住民組合は、15階建て、112戸の建物の損害に対し、25億円を上限にカバーするという保険に加入している。そのため年額600万円の保険掛け金を、徴収した維持費から支出している。この保険が、こんどの耐震偽装被害のような場合、カバーするかどうかについては、調べてみないとわからないという。

マンション全体をカバーする住民組合の保険とべつに、各家庭で起きた火災や水漏れその他をカバーする保険は戸別に購入する。戸別の災害保険は自宅および近隣の修理費用のみならず、移住の費用などもカバーする。

アメリカは自主責任の社会である。自分の安全は保険で護るしかない。安全神話が崩れ去ったニッポンでは、もっと多種多様な保険が必要なのでは?

(出典: デイリースポーツ)