王さん、ありがとう

ニッポンに来て1週間になる。ハワイ史上初めてという記録的な長雨を逃れ、春爛漫を期待して飛んできたのに、小雪の舞い散る底冷えは南国の気候になじんだ骨身に沁みる。

この間の世界野球選手権で、日本チームは強敵キューバを打ち破り、劇的な優勝を遂げニッポン中を感動、熱狂、興奮の坩堝に巻き込んだ。

「あの決勝戦には久しぶりに興奮したよ。こんなに熱狂したのは何十年ぶりだろう。従兄弟たち親戚中に電話をかけまくって、テレビをつけて見ろといってやった。松坂やイチローの一投一打に背筋がぞくぞくしたね」

何を語っても“やっぱりニッポンは駄目やなあ”という自嘲の言葉で締めるのが口癖の醒めた友人が、口角泡をとばしながら興奮の様子を語るのだ。

冬季オリンピックでは金メダル一つ以外は完敗、大相撲は破竹のモンゴル勢に三役を明け渡さんとしている。このうえ野球までも他国の軍門にくだったら、ニッポン男子の立つ瀬はない。こんな危機感がみんなの心の奥底にあったところにこの快挙、興奮せずにはおれない。

対韓国戦に2連敗して瀬戸際に立ったとき、イチローの「この不名誉は3度あってなるものか。相手に今後30年は勝てないと思わせるようなゲームにしようぜ」というハッパのタイミングがよかった。アメリカの野球やフットボールのコーチは、試合前のロッカールームに選手を集めて「相手を倒せ、殺せ、ぶっ潰せ!」と殺気立った気合をいれる。イチローの言葉はそれほど過激ではないが、暴力絶対否定のニッポンで育ったチームメートには、優柔不断と決別し旗色をはっきりさせる心地よさが伝わったのでは。

同僚の判定を覆してまで自国を有利に導こうとする恥知らずな米国人審判のホームタウンデシジョンなど、不利な条件が重なる遠隔地で混成チームを率いての勝利は素晴らしい。王さん、熱狂をありがとう。

(出典: デイリースポーツ)

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