和と正義

「会社の経理を監視する役目の監査法人が、大手企業の粉飾決算を見逃したという理由で、2ヶ月間業務停止になりました。契約している会社にとっては、えらいことですわ」

オーナー社長のYさんはゴルフのショットの手をとめて深刻な表情。

「不正が多くの投資家に損をさせたのだから、こんな法人は業務停止より廃業にすべきでしょう」
「そうされると、会計監査を頼んでいる会社の経理は困ります。なんとか穏便に収める手立てを考えないとあきませんな」
「この際、腐った病巣は切り取るべきです」
「センセは外科医だけあってすぐ切りたがりますな。ま、正論ではありましょうが」
「ニッポンでは、不正が暴露されると、そのスジ論はさておき、関係者の都合を考えて穏便に収めるという伝統があります。不正に厳罰で臨まないから、そこここで腐敗が頻発するのです。そんな世間に住んでいると免疫ができて、皆さんもメディアも『またか』ですぐ忘れてしまいます」

思いがつのると、ゴルフはそっちのけ。

「耐震偽装のマンション、銀行の金融商品押し売り、大学研究員のデータ改竄事件など、他国はニッポンがどんな対処をするか、注目しているところです。かつて世界にゆるぎない信頼性を誇ったニッポンの技術、金融、学術の信憑性を揺るがす大問題ですが、ニッポンの皆さんはそれほど深刻に感じていないでしょう」
「言われてみるとそうですね。もう済んだことのうちですな」

Yさんもクラブを片手に深刻な表情になってくる。

「ここで誤ると、他国からの信憑性を再び取戻すのに何十年もの歳月を要するでしょう」
「センセ、アメリカで不正発覚の場合、ニッポンと対処の仕方に違いはありますか」
「ニッポンは世間の和で対処しますが、アメリカは正義に照らし合わせて判断します。正義は過ちを許しますが、偽装、改竄、強要、詐欺などには厳しいですよ」

(出典: デイリースポーツ)

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