現代刺青考

夏休みで賑わうワイキキビーチのカラカウア通りで、すぐ目の前を歩く白人男女の肌に彫られた藍色の模様が目に止まる。見回すと右も左も刺青を入れた若者でいっぱいだ。OL風ニッポン人女性の肌を染めるぼかし彫りを眺めると、そのミスマッチに、まるで異次元世界に迷い込んだ幻覚を覚える。

若者の刺青ブームは世界的傾向だ。先日、ホノルルアドバタイザー紙は、18歳から29歳のアメリカン男女の36%が、刺青持ちと報じた。彫ったあと数ヶ月すると、入れた墨を自然に消退させる技術も開発されている。ひと昔まえには、刺青は船乗りかやくざ者の烙印だった。ところがいま、大学生やホワイトカラーの間のファッションとして大ブレイク中だ。

現役の外科医であった或る日、病棟看護婦のMが「わたし、刺青をしました。ドクターにだけ、内緒で見せてあげますね」といいながら、パンタロンのベルトに手をかける。「だめだよ。ここは病室だよ」と拒む間もなく、ずり下げた下着の隙間に白い肌と金色の叢が現れる。叢の蔭に彫り込まれたサーモンピンクのハート印を、この目でしかと見届けた。Mは他人の存ぜぬ秘密こそが刺青の快感だという。ならばなぜわたしに秘密を見せる?その裏には、秘密を人目に晒してみたい欲望が潜んでいたのだろう。

ニッポンのゴルフでは、ラウンドのあと大浴場でひと汗流すのが常だ。「刺青のある方、入浴お断り」と浴場の入り口にある注意書が気になりワケを尋ねてみた。倶利伽羅紋々を背負うその筋の御仁たちをクラブから締め出すため、別筋から下りてきたお達しだという。

アメリカだと明らかに憲法違反。総て団体は、刺青の有無で入学、入会、就職、昇進、昇給は勿論、大浴場の入浴も拒んではならぬ。もしも、よしとするならば、人相の良し悪しでも断られる。あなた、大丈夫ですか?一度、自分の顔を鏡にうつしてご覧になったら?

(出典: デイリースポーツ)

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