2001年9月11日

5年前の9月11日朝、テロリストに乗っ取られた2機の旅客機がニューヨークのワールドトレードセンターに突入自爆した丁度そのとき、わたしは家人とともに遅い朝食をとるべく、アイオワシティでいつものレストランにむかっていた。突然、ラジオの音楽が中断し、ツインタワーの一本に飛行機が衝突したと報じた。「高さ400メートルもあれば、セスナやヘリが衝突しても不思議ではないわね」「昔、霧の夜エンパイアーステートビルに爆撃機が衝突したが、建物はびくともしなかったそうだ」という会話を交わしながら、レストランに到着した。

朝食を終えてクルマにもどると、ラジオのアナウンサーが「大型旅客機が突入したビルは火災を起こして崩壊寸前です。これは国家の非常事態です」と興奮している。急いで我が家に戻り、テレビでツインタワーが崩れ落ちるシーンを目にして愕然とした。

消滅したツインタワーの最上階にはウインドウツーザワールド(世界への窓)というレストランがあり、食事中、ライトアップされた雲がテーブルの足元を流れるのが印象的だった。そのレストランでランチの準備をしていたスタッフは、他の3千人とともに一瞬にして生命を失った。

3日のちの9月14日、わたしは38年間の外科医人生の最後を飾る手術を無事にすませ引退した。アイオワ大学病院に勤務した14年間に、アメリカの将来を担う4千人のこども達の生死に関わる手術を行った。助けた4千の幼い生命を、ツインタワーで一瞬にして失われた3千人と対比すると、14年間の仕事は空しい。

いま世界は憎悪に発した暴力とその報復のスパイラルに陥っている。数々の疾病を克服し、手術の技を開発してきた人間の能力は素晴らしい。だが同時に、救った生命を殲滅する手段の開発実施にも励んでいる。これは実に愚かなことではないのか。

(出典: デイリースポーツ)

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