情や都合で動くニッポン

久しぶりにニッポンの病院で、教育回診に招かれた。今年医学部を卒業したという女性研修医が、まだ新しい聴診器を耳にかけて患者の胸を聴診する。その姿を見ると、40数年前に、初めて患者の体に触れて緊張した頃を思い出す。

感傷から覚めてふと気づくと、研修医は患者の着衣の上から胸に聴診器を当てている。

病室の外に出て「いま聴診器で何を聞くつもりだったの?」と尋ねると、「呼吸音です」と答える。「寝間着の上からだと摩擦音がしてよく聞こえないだろう?」「はい」「それなら、どうして寝間着を脱いでもらわないの?」「患者さんの中には裸を嫌がる人もいるのです」「そこを説得するのがプロの医者だ。患者さんを診るフリをするのは欺瞞だよ」「でも、患者さんは一応満足していますから」「シロウトの患者さんにへつらってどうするの。キミは病気を治すプロの医者になるんだろ」

次の部屋では腹部触診をするのを見たが、まるで餅をこね回すような手つきで患者の腹をなでまわす。何を触れ何を探索しようとしているのか、背後にある思考が理解できない。隣の患者の膝蓋腱反射を調べてみろと指導医に命じられたこの女医さん、右手を握って拳骨をつくり、それで膝蓋腱をヒットした。腱反射を調べる道具がなければ、行ってとってくるのが段取りというものだ。

あまりの非常識に、側に立つている研修指導医にワケを糾してみると、「今の若い子はきつく指導するとむくれたり、すねたりするので困るのです」だと。「そんな稚拙な未熟人間を医者に仕立てて、一体どうすんだ!」と口から飛び出しかけた。

アイオワ大学病院にこんな研修医や指導医がいたら両者とも即日解雇だ。指導医は研修医を育てるのと同時に、ダメ医者を社会から排除する義務を持つ。それが医師育成の原理原則。都合や情で動いてはいけない。

(出典: デイリースポーツ)

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