ハワイ大地震

先週の日曜日、目醒めて枕もとの時計をみると7時。月例ゴルフコンペの日だが時間までには早すぎる。夢とうつつを行きつ戻りつしていたところに、ドーンと強烈な衝撃がきた。地震はない筈のオアフ島だ。さては北朝鮮からミサイルが飛んできたな、と一瞬思った。まさかと思いつつテレビをつけたが、余震のひと揺れとともに停電で消えてしまう。天井ではファンが揺れ、デスクの引き出しは滑り出す。ほどなく水も湯も出なくなった。テラスから道路を見下ろすと、200メートル離れた交差点の信号は消えているが、クルマは平常どおり走っている。津波の気配はと沖をみるが異常なし。マリーナの水位を見ても潮のレベルに動きはない。おりから前線の通過中で驟雨の吹き降りはあるが、いつもの日曜の朝に変わりない。

「このコンドミニアムは、わがO組が海外初事業として日本の建築基準で建てましたから、並の地震ではビクともしません。ご安心を」大阪の大手ゼネコンホノルル支社長が太鼓判を押してくれた住いはどこにも損傷なし。

問題は停電と断水だ。3年前の大停電時に買っておいた4リッターの飲料水が大いに役立った。湯沸しには鍋物用のポータブルガスレンジが活躍。日中はもっぱら読書で過ごした。日が暮れるとローソクを家中にある限りの燭台に灯し、中世貴族の館の気分で夕食。長く感じた1日だった。

午後11時半、やっと電気が回復し16時間ぶりに文明の暮らしが戻る。テレビで震源地は 250キロ離れたハワイ島と知った。コンピュータを開くと、あらうれしや、ニッポンから無事を気遣うメールの束。ありがとう、大丈夫と返信しながら、なぜ生死の心配してくれるかと不思議に思う。日本のテレビがホノルル空港の閉鎖を報道、これに尾ひれ羽ひれがついたせいだとあとで判った。ま、怖かったが、無事でよかった。

(出典: デイリースポーツ)

無知ほど怖いものはない

安倍首相の訪中訪韓にあわせて北朝鮮は核実験を遂行した。ビョンヤン放送テレビは「われわれの科学技術者たちは、計画どおり安全な核実験に成功した」と報じた。朝鮮語は皆目理解できないが、アナウンサーの口調は、東映映画の遠山の金さんが「やいやい、この桜吹雪が目に入らねぇか」と大見得をきる口調にそっくりだ。画面をみるたび笑ってしまう。核実験に「安全」はなじまない。察するところ、実験は失敗に終わり、期待したほどの破壊力は得られなかったのだろう。針小棒大報道を得意とするのがピョンヤン放送テレビだ。成功していれば「何メガトンの破壊力」と誇らしげに伝えるだろう。失敗を「安全」という言葉でごまかしたものと推理する。

北朝鮮といえば、ソウル大学スタッフが語ってくれた、北朝鮮友好使節団のソウル訪問時のエピソードを思い出す。北の訪問団はソウル市内の店に山と積んで売られている商品をみて、「お宅の政府にも高官がごまんと居るようですな」と案内係に囁いたそうだ。彼の国ではこうした品物を自由に購買できるのは政府高官のみ。母国の事情にあわせて商品の数量から算定したところ、韓国には数十万人の高官がいるものと推理したようだ。

ソウルの道路を埋め尽くすクルマの洪水を目にした使節団の一人は「これほどの数のクルマを米国や日本がよく貸してくれましたな」とマジで言ったという。この御仁、ソウルの道路を埋めるクルマは全部借り物で、使節団に工業力を偽るために、韓国政府が仕掛けたカラクリと思ったようだ。

使節団を地下鉄に乗せたら「このトンネルは軍事境界線の下を通過し、わが祖国に通じているに違いない。地下鉄に兵士を乗せて侵攻する作戦なのだな。帰国したら早速、将軍様に報告しなくては」と言ったか言わずか。

この世に無知ほど怖いものはない。

(出典: デイリースポーツ)

大学の頭脳保護対策

早稲田大学理工学部の松本和子教授は、研究費の不正使用があったとして、大学から1年間停職の懲戒処分を受けた。研究費を教授の個人口座に預金し運用したというのが、その理由だ。最先端の理論や技術の開発に分秒を競う研究者にとって、空白の1年間は大学人としての終焉を意味する。ニッポンの大学には、教授や研究者を保護する頭脳保護対策が存在しない。だから、こうした悲劇が生まれる。

アメリカの大学は、教授の頭脳を人類の財産とみなす。余人では埋め合わせのきかぬ頭脳の喪失を避けるため、保護対策を作動させている。

まず、優れた教授には終身身分保障(tenure)を与え、学内の人間関係の葛藤を理由に解雇されない策を敷く。たとえば学部長がある教授に偏見をもち解雇しようとしても、終身身分保障がそれを阻止する。

優れた教授は政府や企業からの依願研究契約金として多額の資金を獲得する。わたしの大学では、医学部だけで毎年300億円もの研究資金を受領する。資金の総ては大学事務総長直属の専属スタッフ20名が働く依願研究事務局が受領し、研究者の個別口座を開設して保管する。研究に必要な購入はすべてツケで行い、あとで事務局が小切手で支払う。研究者には現金に一切触れさせないシステムが確立している。それでも、使途が学内規定に合う限り、自在に研究費は使える。

それと別個に、企業や個人から学術活動支援金として贈られる資金は、大学財団に設けた口座で管理する。このカネは、ゲストの接待、書籍購入、旅費などに使う。事務局と財団が保管する数百億円の資金は、専門家が投資運用して成長を図る。

ニッポンの大学にはこのような資金管理システムが不備である。研究者個人に資金の受領、管理、支出を負わせ、資金管理に齟齬があれば、松本教授のような頭脳が失われる。

空しいと思わないか。

(出典: デイリースポーツ)

アメリカの小学校

ニューヨークの小学校に招かれて、供覧手術に訪れた10数カ国のスライドを見せながら、各国の子ども達のライフスタイルについて特別授業をした。この市立小学校の1学年は60 名余り。それを3クラスに分け、1クラスの生徒数は18から22名だ。「受持ちが20名を超えると、各生徒の家庭の事情や、性格、長所短所、学業能力を把握した全人格指導が困難になり、理想の教育が出来ません」と3学年のクラスを受け持つ教師のスーザンはいう。

この小学校には持ち上がり制度はない。スーザンは3年生だけを受け持つ、いわば3学年教育のプロである。年度末が来ると1年間教えたクラスを4年目担当の教師に手渡し、進級してきた新3学年を教え始める。

その日は1日中授業参観をさせてもらった。スーザンが各生徒の家族全員の名前は勿論、ペットの名前まで全部覚えているのに強い印象を受けた。生徒一人ひとりの長所短所を熟知し長所を褒めることにより、学習にたいする興味を引き出すテクニックは見事である。

授業中に席を離れたり、私語を交わしたりなど勝手な行動をとる生徒は一人もいない。まるで熟練した猛獣遣いの巧みの技を見るようだった。

6学年18クラスに交代要員を入れた教師23名に対し、支援スタッフ45名が配置されている。教材の準備、刷り物の手配、教室の掃除、給食、営繕、事務会計などはすべて支援スタッフがやってくれる。だから教師たちは、スーザンのような教育のプロでいられるのだ。

ニッポンは世界主要30カ国中、教育の対GDP公的予算支出比率が最低なのをご存知か。米英仏が5%を超えているのに日本は3.8%に過ぎない。これでは20人学級の実現や、教師を支援するスタッフの雇用は不可能だ。安倍首相は教育改革に全力を注ぐと明言した。

善は急げ。まず教育予算の倍増を期待する。

(出典: デイリースポーツ)