「オペのイチロー、世相を斬る!」

先月末にニッポンに来て束の間の3週間が過ぎた。いま春爛漫。ニッポンの桜を存分に楽しんでいるところだ。寒さの厳しい冬もお水取りを過ぎる頃になると、そこここに鳥がさえずり、木々は若芽を膨らませる。水ぬるむ頃、野には蓮華が咲き、ふきのとうやつくしが目を覚ます。よもぎの葉を摘んで香りを嗅ぐと、むかし遊んだ川原を想い出す。快いファンタジーに耽っていると、このままニッポンに留まりたくなってくる。胸中に蠢動する春のきまぐれは過去に何度もあったが、今度のように胸のときめく名残り惜しさに変じたのは初めてだ。なぜだろう。

「ハワイは春夏秋冬の節目がのうて、秋と冬は永久にこない絶海の小島やおまへんか。そんな島によう辛抱して住んではりますな。そのうち南洋ボケになりまっせ。はよ戻ってきなはれ」ニッポンで再会した大阪のオッチャンは相変わらずハワイに対して厳しい言葉を吐く。「オッチャン、ハワイで誰ぞにフラれでもしたのと違いますか?」水をむけると「いや。誰もが思うてる当たり前のことを言うてるだけです。センセみたいなお人は、ニッポンにおらなあかん」だと。

「からだはハワイにあっても、気持と心はニッポンにしっかり根付かせ残しています。ウソだと思うなら、先週全国の本屋の店頭に並んだ『オペのイチロー、世相を斬る!』(松柏社¥1500)というちょっと変わったタイトルの本を読んでもらうと判ります」

「ふーん、センセは手術のほかにモノ書きもしはるんでっか?モノ書きは英語でしまんのか?」「勿論ニッポン語です」「それやったら早よニッポンに戻りなはれ。ハワイで英語みたいなもん使うて暮らしてたら、ニッポン語を忘れまっせ。大阪で関西弁で暮らすほうがなんぼかよろし」

執拗にニッポンに戻れというワケが判った。オッチャンは英語が嫌いなのだ。

(出典: デイリースポーツ)

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