ブロードウェイの「マンマミーア」

いまマンハッタンの6番街と53丁目の角にそびえたつヒルトンホテルに滞在してこの稿を書いている。部屋から通りを見下ろすと、夜半過ぎというのに人の流れの途絶える気配はない。ホテルから少し西をショウ劇場のひしめくブロードウエイが斜めに走っている。ホノルルを出発する前にホテルの係りに電話で頼んでおいた「マンマミーア」というショウのチケットがとれたので早速観に出かけた。幕が上がるのは8時。夕飯はその前でなければ、はねたあとでは遅すぎる。近くのイタリア料理店を6時に予約し、満席のテーブルでサラダとパスタ、それにグラスのキアンティだけという簡素なディナーをそさくさと済ませた。周りのテーブルの会話は専らショウの前評判ばかり。

この国に移住して真っ先に落ち着いたのがこのNYだった。その土をいままた踏んで感無量である。だが感傷に浸るとワインがまずい。オトコは幾つになっても、あとを振り向いてはいけない。ひたすら明日に向うから今日という日が生きられる。

「マンマミーア」を演っているウインターガーデン劇場は、1年を通して98%の充席率だ。今宵も満席。ショウは熟年未婚母とその娘の父親を名乗る男たちが織り成す他愛もないストーリーだが、息もつかせぬ2時間半のパーフォーマンスは素晴らしかった。数千人の中からオーディションで選ばれたアーティスト達は、某国の有力芸能事務所があちこちに圧力をかけて売り出す稚拙類芸人とは根本が違う。ホンモノのアーティスト達が観客に媚びないのがいい。フィナーレの十数分間は総立ちの観客席と一体化した演出に感極まって泣き出す人もいた。通りに吐き出さても、まるで自分が「マンマミーア」の主役を演じたような高揚感が残る。これにどっぷりハマってしまったのでもう次のNY行きを計画中。

(出典: デイリースポーツ)

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