アイオワのエタノールブーム

アイオワ州の地表は女性の裸体を連想させるたおやかな曲線の丘に覆われている。その昔チェロキーやアパッチとよばれた原住民は、この地を彼らの言葉でアイオワ(美しい土地)と名づけた。アイオワが“美しい土地”であるのにはワケがあるのだ。

氷河期時代南下する氷河はミネソタ州の表土をえぐり無数の湖を残したが、アイオワとの州境で動きを停めた。ミシシッピー川をはさんで東に位置するイリノイ州では氷河は更に南下しそのあとに凹凸のない真平らな大地を残した。なぜか氷河の牙を免れたアイオワ州では、地表を覆う分厚い肥沃な地層がたおやかな曲線を描きながら無傷で残ったというワケだ。だからアイオワの農地に肥料は要らない。大地に種を蒔けば作物はすくすく育ち豊かな収穫をもたらす。まさに“美しい土地”である。

アメリカ人は1年間に6千万頭分の牛肉を食べる。アイオワ州の農地は牛6千万頭の飼料を生産する余力があるが、飼料相場の値崩れを防ぐため永年半反政策が採られてきた。最近石油価格の高騰によりトウモロコシから抽出したエタノールが代用燃料としてペイすると判って様相は一変した。

アイオワの農地は1エーカー(4千平米)が千ドル(12万円)。1平米が30円だ。タダみたいな土地に種さえ蒔けばトウモロコシは無限に収穫できる。それが高値で売れるのだから農家の主にしてみればまさに千載一遇のチャンス到来だ。洪水のごとき投資マネーの流入によってアイオワシティにはガラスとスチールのマンションやホテルが林立し、以前の瀟洒な田園都市の香りは消失した。大地主の元秘書が所有する地所にはカジノつきのホテルが建ち、プチラスベガスとして活気を呈しているという。自然破壊も心配だが一番の気がかりは人心破壊だ。元“美しい土地”の住人としては、この狂気の沙汰が早く過ぎ去るのを祈るのみ。

(出典: デイリースポーツ)

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