人生の経費

21年ぶりに過ごした日本の夏はききしにまさる酷暑である。ニッポンの棲みかと定めた大阪のマンションは賃貸ながら快適な住み心地だ。キッチン、バスをふくむ全インテリアを新装したばかり。2台のクーラーは備えつけ。ひと目見て即決したが、賃貸の手続きに日米間の大きな違いを発見した。

不動産屋の紹介手数料が家賃1ヶ月分というのは日米同じだ。米国ではそれと別に家主にダウンペイメントと称する預かり金1ヶ月分を渡して手続きは完了だ。この預かり金は、住宅に常識を超えたダメージがなければ、出るときには全額返還してくれる。

ニッポンでは敷金や権利金というワケの判らぬカネを取られる。それも家賃の半年分ぐらいを敷金として預かり、出るときには60パーセントを権利金として徴収するというから、強盗に逢ったような気になる。敷金や権利金のいわれについて不動産屋を質問攻めにしてみたが、プロでも明確な返答ができない代物だ。ラチのあかぬまま今に至っている。

米国では冷蔵庫と洗濯機は賃貸住宅の常備品である。この二つを欠くと借り手はつかない。日本では借り手が買うのが常識だという。何という無駄遣い!絵や電話機を壁に掛けるために釘を打ってもいいかとたずねると、出るときの損料を覚悟ならどうぞという。そんなアホな。米国の家主は釘穴やフック穴には一切損料をとらない。穴をシーラーで埋めるのは素人でも出来る。内装を借り手がすきな色に塗り替えても、家主は一切文句を言わない。

絵も写真も掛かっていない無機質な白い壁、床に置きっぱなしの電話機を見て出るのはため息。ニッポンの賃貸住宅市場はあくまで家主優位で動くビジネスとみた。

「センセ、ホノルルのお宅と大阪が半々なら、大阪の半年分は空家賃ですな。もったいないですな」「これも人生の経費だと納得しています」

(出典: デイリースポーツ)

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