続 レトロな民間サービス業

早朝外にでると肌にあたる風が日ごと冷たさを増し秋の深まりが感じられる。四季のないハワイの住民には貴重な感覚だ。上高地ではすでに紅葉がはじまっているという記事を読んで急に探訪を思い立ち、早速ガイドブックで見つけた宿に予約の電話をかけてみた。

北アルプスを一望にする山間のホテルには和室と洋室があり、食事も会席膳とフランス料理のどちらかを選べるという。食事付の温泉旅館は料理の品数だけを競う愚かしさが嫌で避けてきたのだが、ついにニッポンも選択を尊重する時代になったかと感激し「ボクはフランス料理、家内は和食にしてください」と頼むと「それは出来ません」という。「どうして?」「和食とフランス料理をお出しする食堂は別なので、お二人別々に分かれてのお食事になりますがよろしいですか?」「それは困るよ。どうにかならないの?」「ご一緒に食事をされるのでしたら、和食かフランス料理のいずれか、お二人同じものを選んでいただくことになっております」しばし絶句のあと「部屋の予約はそのまま。食事の選択はまたあとで」で会話は途絶えた。

ニッポンで暮らしていると、この手の会話は日常的で不自然に感じないかもしれないが、アメリカ暮らしの心は大いに乱れるのだ。第一、どんな理由であれカップルを引き離して食事させて平気でいるセンスが耐え難い。第二に一緒に食事したければどちらか一人が好きな料理を犠牲にしろというのも納得できない。これは二つともサービス業の基本理念に反している。「同じものを選んでいただくことになっています」とは民業のくせに何ごとぞ。「なっている」のではなくて「自分たちがそうしている」のでしょうが。まるで他人ごとのような口上は官業の常套句ですぞ。食堂やキッチンのスタッフの都合よりも客の身になって考えてごらん。間違いが判るから。

(出典: デイリースポーツ)

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