混合診療

健康保険のきく従来の治療費は保険で支払うが、新薬や新技術など保険が効かない最新治療の医療費は自費で補うという二本立ての医療費支払い方法を混合診療と呼ぶ。政府は永年にわたって混合診療を禁じてきた。その理由は、最新治療の費用が自費で払えぬ貧乏人とカネで買える金持ちとの間で生死にかかわる違いがでるのが公正さを欠くからだという。

たとえばあなたがガンになったとしよう。ガンの手術切除に続いて新薬の抗ガン剤を使うと救命の可能性は高いが新薬は保健適応外にある場合、
「センセ、是非新薬を使ってください。その費用は自費でお払いします」
「自費は新薬の費用だけでは済みませんよ。新薬をつかうと今までにかかった入院費、検査料、手術代など診療費のすべてに健康保険が効かなくなる仕組みになっているのです」
「それは理不尽です。一種の懲罰ではありませんか。保険料も一度の滞りなく納めてきたわたしにが、そんな懲罰を受けるいわれはありません」(沈黙)
「健康保険は、被保険者の命を救うためのあらゆる手立てに有効であると信じて来ました。がっかりしました」
ニッポンの病院に勤務した頃、医者を辞めたくなるような、こんな辛い立場に何度も巡りあった。

政府の言い分は、混合診療に貧富ともに保険が利かなくなるような懲罰を仕組んでおけば医療サービス受給の平等性は保たれ、公正で文句はなかろうという理屈だ。だがこの罰則を作った人間は生死の境にある病人の想いを無視している。この状況では藁をも掴みたいのが人間だ。死後には平等も公正も意味をもたぬ。官僚は、罰則よりも新薬の恩恵を万人に与える方法を考えるのが先決という常識的発想に欠けている。

先日「混合診療に仕組まれた懲罰は理不尽なり」と訴訟を起こした常識人が一審で勝った。国は早速控訴したが、上級審でも常識が勝つようにと願っている。

(出典: デイリースポーツ 2007年12月6日)

3 thoughts on “混合診療

  1. 木村先生、
    混合診療禁止という規定が出来たのは、上記に記してある
    ような悪平等の固定という理不尽な目的のためではないは
    ずです。
    混合診療が禁じられたのは、そもそも、医師が圧倒的に優
    位にあった日本の医師・患者関係においては、医師が勧め
    た治療なり新薬なりを患者は断れないだろうということから、
    混合診療を認めれば実質的に開業医による保険外診療が
    際限なく行われ、国民皆保険制度が維持できなくなる危惧
    があったからのはずです。
    混合診療が禁止されてきたことは、誰もが安価にそれなり
    の質の医療を受けることが出来る日本の保険制度維持さ
    れて来たことの一つの理由であり、その趣旨自体は決して
    間違ったものではないと愚考致します。
    なお、現在、日医が混合診療を擁護しているのは、消費者
    の目が肥えた今の日本で混合診療が解禁されれば、医師
    会を構成している伝統的な開業医が、新しい治療法や最新
    設備を導入しうるだけの経営力を有した大病院なりと勝負に
    ならなくなるからと聞きました。

  2. 木村先生
    混合診療解禁に関し、ホームページで厚労省の見解が紹介されています。第115回中医協総会の資料です。マスコミで分かりやすく解説して欲しいものですが、これによると問題の治療は免疫療法を二重に受けることでした。効果倍増を期待するのは当然です。でも、複雑な医学理論や医療保険制度のなかで、混合診療解禁を判決したこと自体に疑問を感じます。鵜呑みにはできませんが厚労省の見解は、議論が不十分だから即控訴です。ベンチャーに投資している財界にとって、資金回収を目的とした完全自由化は急務です。また、実験的治療に参加する勇敢な患者さんを投資の犠牲にはできません。完全解禁ではなく制限は必須なはず。
    スティーブ・マックィーンの闘病を調べているうちにこのブログを知りました。当時の先進医療に多額の研究費を提供したと聞いております。何かご存知ですか?

  3. 木村です。
    コメントは, テクニカルな問題重視の立場にたって混合診療禁止を擁護するご意見と理解しました。
    患者個人の受益と権利を擁護する立場にたってみると、混合診療禁止は患者の治療方法選択の自由を束縛しています。
    特定のグループの権益を護るために混合診療禁止を擁護するという論理は、今の時代の自由主義社会にはなじまないものです。
    医療の質は競争原理が働いてこそ向上します。
    解禁した場合に起きるであろう負の条件の想定をもとに混合診療を禁じているとしたら、一度解禁して現実にそうなるかどうか観察してみたらいかがでしょうか。
    不都合があれば、再び混合診療禁止に戻ればいいではありませんか。

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