『レモン』

春の訪れとともに、スーパーの店頭に色鮮やかな果物が並ぶ。積み上げたレモンを見ていると、35年前留学生として初めての米国で中古車を買ったときの記憶が戻る。
「中古車を買うときには『レモン』に気をつけろよ」と友人が忠告してくれた『レモン』は、外観色鮮やかだが中身はガタガタのポンコツ車の俗称だ。それにちなんで偽装商品を総称し『レモン』と呼ぶようになった。

米国で『レモン』商法が盛んだった当時650ドルで買った中古シボレーは、間もなくトランスミッションが壊れて修理に多額の費用がかかった。その後多業界に及ぶ消費者保護法が生まれて中古車業界から『レモン』を一掃した。いま中古車の売買には、あらゆる車種の年式と走行距離から算出した標準価格の載ったブルーブックが用いられる。下取り価格も販売価格も、クルマの程度によりって基準価格の上下10%の範囲内で取引される。だから一般消費者も安心だ。最近は中古車にも3ヶ月程度の限定保証をつける業者も増えてきた。

ニッポンでは新車登録をするだけでクルマの価値が5割近く下がると風聞する。カネのかかかる登録や車検制度というもののない米国では、市場価値は年毎に10%づつ直線的に減少する。

Y氏は留学生のI君から新車から1年経ったクルマを、10%減の値段で買った。Y氏が帰国する半年後になったがクルマに買い手がつかない。思い余ったY氏は愛車をディーラーに持ち込んだ。ディーラーから幾らで売りたいかと尋ねられ、Y氏が新車の20%減の値段を提示すると「それは2年モノの価格です。まだ1年半だからその値段に2%上乗せしましょう」
感動したY氏、「アメリカでは騙しが多いと聞いていましたが、誠実な業者もいるんですなぁ」

それもこれも強力な消費者保護法のお蔭。欺瞞商法がまかり通る今のニッポンに必要なのはこれだ。

(出典: デイリースポーツ 2008年3月20日)

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