善意の寄付は非課税に

先週、国際ソロプチミスト豊中―千里が主催するチャリティゴルフコンペに参加した。120名ものゴルファーを集めたコンペでは、各ショートホールのグリーンに1打でオンしなかった場合に課せられる500円の罰金総額だけでも12万円を超え、参加費の一部と共に慈善事業に寄贈された。

国際ソロプチミストは、ラテン語の“ソロ”(姉妹)と“プチ”(理想)を併せて“最良の姉妹”という意味の、女性実業家や専門職を会員とする国際奉仕組織である。この女性だけの国際団体は1921年に米国で創立され、現在125ヵ国3200支部に会員9万人を持つ。日本では京都に本部があり、540支部の会員1400名が活動している。

チャリティコンペというと、アイオワ大学在任中、小児病院の資金集めのために在米ニッポン企業N社に主催してもらったゴルフコンペを思い出す。このコンペで、1日で10万ドル(約1千万円)もの大金をかき集め小児病院に寄贈したN社の企業好感度は急上昇した。

キリスト教は「汝隣人を愛せよ」と教える。この教義に準じて慈善行為を奨励する米国政府は公共団体への寄付を免税とする措置をとっている。免税の恩典を追い風に、個人や企業は社会的地位の向上をもたらす巨額の寄付を惜しまない。拠出された豊富な寄付金のお蔭で辛うじて命脈を繋いでいる公立学校や病院も少なくない。一方ニッポンでは、教育や福祉活動は国や自治体が税金を使って行う公共事業と認識されている。加えて個人や民間団体からの寄付は課税控除にならない。相互扶助意識が低いワケはここにある。

コンペ参加者のテーブルをざっと見回すと、非課税になれば大口の寄付をしそうな人は大勢いる。それでも財務省が善意の寄付を非課税にすることはありえないことだ。そう思うとニッポン独特の閉塞感が身体のすみずみに染み渡り、深い脱力感を覚えるのだった。

(出典: デイリースポーツ 2008年4月24日)

医師不足解決は「付き人」で

近頃、月2回のペースで小児外科医を求めるDMが来る。「環境最良の人口50万地域社会。勤務先は大学病院内併設の小児病院。オンコールは3日に1回。支援スタッフ充実。年俸保証50万ドルプラス歩合。専門医資格保有の小児外科医」年収5千万円保証はなかなか魅力的。錆びついた手指に油を差して、いま一度外科医に戻ってみたい誘惑にかられる。

文中「大学病院内併設の小児病院」というのは、費用節減のため大学病院の施設や設備にタダ乗りのヤドカリのような小児病院だ。「3日毎のオンコール」には、3人の小児外科医が交代で手術当番を受け持つ仕組みだから、月のうち20日は家で晩酌が出来るという意味が込められている。「歩合」は手術数に応じた割り増し加算だ。働きによって「歩合」が年間数十万ドルに達することもある。「専門医資格」は文字通り小児外科の専門医資格。5年の研修で普通の外科専門医のあとさらに2年の研修が求められる小児外科専門医は、全米で毎年20名しか誕生しない貴重な金の卵だ。引退外科医にまでDMが届くにはこんなウラがある。

「支援スタッフ充実」というのは、医師一人に数人の「付き人」を付けるという意味だ。アメリカでは、医師をタレントと見做して一切の雑用は「付き人」にさせる。医師による診療行為への報酬のみが医療団体の唯一の収入源であるのは日米共通。ならば医師を診療のみに専念させれば増収になるという理屈は子どもでも判る。診療に専念できるアメリカ医師はニッポン医師の4倍もの患者を診るが、疲弊はしない。

医師不足が深刻なニッポンの医療界は、この「付き人」コンセプトを欠く。「付き人」を持たぬ医師は「ハダカの王様」だ。責任のみ重くて支援のない激務は、やがて勤務医師たちを疲弊退職に追いやる。手遅れになる前に手を打たねば、事態はかなり重症ですぞ。

(出典: デイリースポーツ 2008年4月17日)

観光ハワイの危機

ホノルルの我が家で暮らして2週間が過ぎた。地元の魚屋で買う近海ものの活けのマグロは、赤身の刺身が飛び切り旨い。年中が旬のカツオと並んでハワイの隠れたグルメだ。両方とも相方はやはり日本酒。いまの気候は大阪の10月中旬ぐらいだから、熱燗が合う。そんなホノルルでも、半月も暮すと西中島南方食堂の秋刀魚の塩焼きや、店長手作りの卵焼きが恋しくなる。コラムが掲載される頃大阪に戻ったら、真っ先に駆けつけねば。

ニッポンから届く便りはもっぱら桜の開花と阪神タイガースの快進撃。円高、ガソリン値下げ、物価高騰、景気下降、日銀総裁の空席のすべてを組み合わせると、花だ野球だと呆けている場合ではない。ニッポンの水面下では深刻な事態が秘かに進行しつつあるようだ。

先週ホノルルでは60余年の歴史をもつアロハ航空が倒産した。永年ハワイ各島間のルートをハワイアン航空と2社で分けあってきたこの老舗航空会社は、米国本土西海岸にも路線を持ち年間50万人の観光客をハワイに運んでいた。今回ハワイ路線を持つ中小航空会社2社もアロハ航空と相前後して相次いで倒産。そのあおりでハワイの観光客は今後10%減と予想される。

当地のニッポン語ラジオ局は、毎朝日本からの到着便数と乗客数を報道する。バブル前のハワイ観光最盛期には1日1万人という時期もあった。8年前の9.11事件以後の一時期2千人を下回ったが、ここ数年は4千人まで回復維持した。ところが航空運賃に数万円もの特別燃費加算がつくようになって再び下降、昨日はついに2千人にまで落ち込んだ。

その影響でレストランもゴルフコースもガラガラ。当日でも予約がすぐ取れるのは異常だ。レイオフを怖れる地元民は買い控えに走る。だからショッピングセンターもスーパーも人影まばら。物価だけはじりじりと上がる。なにやら目に見えぬ重大危機が迫り来るのが肌で感じられ薄気味がわるい。

(出典: デイリースポーツ 2008年4月10日)

正義の番人

先日、関東のどこかの街で若者たちがたむろし騒いでいるという住民からの苦情を受けて23歳の警察官が駆けつけた。若者たちに立ち退くよう説得したが、すんなり従う手合いでない。やむを得ず拳銃を抜いて威嚇し、立ち退き命令に従わせたという。

記事を読んで、この23歳の若者に「たった一人で複数を相手ではさぞや恐ろしかったろう。よくぞ勇気を奮い起こし善良な市民の権利を護るための任務を果たしてくれた。近頃めったにみられぬ男らしい振る舞い、アッパレだ!」と秘かに賞賛の拍手を送った。

ところが2、3日後の続報を読んで仰天した。この正義の番人は拳銃の過剰使用で上司から叱責を受け1ヶ月の停職処分を食らったという。それに対して各紙は勿論、テレビのワイドショーなどでも一切反論はなし。地域住民を悩ませた愚か者たちは、逆転勝利に溜飲を下したことだろう。納得のいかぬまま成田からホノルルへ。

迎えのリムジンドライバーHに、早速アメリカンの心情を探索してみる。Hは永年連邦政府に勤めた後、今は定年後の暇つぶしにドライバーをしているホノルル退屈男だ。余談になるが米国ではこうした転職は珍しくない。わたしの勤めた大学を引退した億万長者の元内科教授が空港送迎専門の個人タクシーのハンドルを握っている。一度乗せてもらって何故にと尋ねたら「病人は診飽きたので健康な多数の人と接してみたいから」だと。天下りはニッポン特有の現象と見る。

「この拳銃過剰使用で罰せられた警官、アメリカの警察幹部ならどう対処する?」Hに尋ねると「無抵抗の相手に拳銃を抜いたら懲罰。相手が指示に逆らった場合、威嚇はもちろん発砲もお咎めなしだね。でなければ警官のなり手はいないよ」

折しもニッポンでは張り込み中の警官の目前で、多数の人が無差別に刺される殺傷事件が起きた。警官は全員丸腰だったという。正義の番人が武器なしで任務を全う出来るのか?ニッポンのワル共は、ちと過保護に過ぎはしないか?

(出典: デイリースポーツ 2008年4月3日)