老人医療保険

ニッポンはいま高齢者の医療問題で大揺れだ。新しく制定した老人健康保険の掛け金を、75歳を超えた老人の年金から強制的に徴集するという暴挙がたたって、与党は国政のみならず市政選挙でも敗北。市民の怒りは収まらない。本人の承諾もなしに命の綱の年金から掛け金をかすめとるなんて、まるで近隣の圧政国家の仕打ち、個人の自由尊重をかかげる憲法に違反しているのではないか。コンピュータの前に座って数字合わせだけで善しとする行政企画者には、人の気持ちを読むことは出来ない。

米国のメディケアと呼ぶ老人健康保険は1965年に発足した政府管掌保険だ。全国民は収入に応じてメディケア税とよぶ使途限定税を納める。65歳になると納税の有無にかかわらず老人保健の庇護をうける。老人保険がカバーするのは原則として入院治療費。定額の自己負担額800ドル余りを支払うと、入院3ヶ月までの医療費はどんなに高額な手術や検査をしてもすべて保険がカバーするから入院料を含めて自己負担は一切不要である。

自己負担の比率が高いニッポンの老人保健との違いは外来診療のカバーが薄い点だ。診察料、検査料、薬剤費の限られた部分は保険が負担するが、残りは自費で支払うか、別個に加入する第2、第3の私的健康保険でカバーする。入院加療を厚く、外来診療を薄くカバーという特徴をもっている。その根本理念は、病人一人ひとりに莫大な費用がかかる重病の入院治療は保険で、総和すると膨大な額になる外来診療費は原則個人負担でという区分けだ。

ニッポンの総医療費は33兆円といわれている。人口が約2倍の米国では150兆円。額にするとニッポンの5倍、人口比で2.5倍だ。その150兆円の約半分は老人の医療費だ。それでも政府は余生に限りある老人に負担を求めたりはしない。資金が足りなければ次世代から集め、次世代は次々世代に受け継ぐのが保険の本質ではないのか。

(出典: デイリースポーツ 2008年6月19日)

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