ホノルル歳末記

「どうです。商売繁盛していますか?」
「いや、さっぱりですわ。こんなに人の少ないカラカウア大通りは9.11テロ直後の正月以来初めてでんな」

関西からホノルルに移住してみやげモノ屋をしているAさんとの会話だ。

「皆さん財布のひもが固うてあきまへん。安モンばっかり人気があっても儲かりまへんわ」
「今まで暴利をむさぼってきたのだから、たまには吐き出しの奉仕やと思えばバチは当たらんでしょう」と毒づいてみると、
「こんな不景気で厳しい時節に奉仕やて無茶いうたらあきまへん。倒産しまんがな」

立ち寄った店内にも人影はまばら。日ごろならごった返すお客の対応に追われ、店主も引退外科医のようなヒマ人との会話に付き合ってはくれない。与太バナシに華が咲くのも店がヒマな証拠だ。

暮れから正月にかけてはニッポン各地から毎日7千人の観光客がホノルルに到着する。それが今年は連日4千人止まり。これでは観光ビジネスは干上がってしまう。

パーティーでばったり出会ったレポーターの梨本勝氏に「どうです。芸能人は大勢ハワイにきていますか?」と尋ねてみると「今年は少ないですね。キョーシュクです」という返事が戻ってきた。ハワイは芸能界からも見捨てられたのかと愕然とする。

暗い気持ちでテレビを見ていたら突如夜空を切り裂く大閃光が奔り、落雷の響きと同時に電気が止まって真っ暗になった。外を見ると豪雨の中、暗闇を照らすはクルマのヘッドライトだけ。夜も更けて雨もあがったが、街灯も人家の明かりもない漆黒の空には無数の星がきらめくだけ。太古のハワイは多分こんな情景だったのだろうと想いを馳せる。

電気が停まればエレベーターは動かないし水も出ない。飲み水を求めて8階から非常階段で地上まで往復2回。汗だくになりながら文明の有難味を再確認させてくれた大停電だった。

(出典: デイリースポーツ 2009年1月8日)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です