カスぼん

「一流大学出でも、カスぼんは所詮カスぼんでんな」苦労人の大阪のオッチャンが吐き捨てる。カスぼんは関西弁で“ぼんぼん育ちのアカンタレ”のことだ。世界が注目するG7後の記者会見でニッポンの恥をさらした財務金融大臣に向かっての蜂の一刺し。テレビに映る大臣は醜悪だった。ホノルルの新聞にも大きく報道され市民の冷笑を買った。いま各国指導者は経済の破綻防止に必死のときだ。ニッポンの金融責任者の発言は命を握る綱に等しい。世界中が期待を込めて見守るなか、べろんべろんの酔っ払いが登場してあの醜態。ニッポンにナメられたという声も聞えた。

「数人の報道関係者が大臣のホテルの部屋で酒盛りに参加していた」という国会答弁に、アメリカンの友人がブチ切れた。「新聞記者ともあろう者が取材対象者である大臣に酒を飲ませてもらうとは何事ぞ。オゴリ酒を飲んだジャーナリストが大臣について中立公正な記事を書けると思うかい?わが国の新聞にこんな記者がいたらジャーナリスト倫理規定違反でただちに職を失うぜ」ニッポンでは記者がタダ酒を飲んで社をクビになったというハナシは聞かない。

「乳母日傘で育てられ、一流大学に入れてもろて、家で会う人はペコペコ頭をさげて己の親になんぞ頼みに来る人ばかり。そんな家庭でオトナになったら、世界は自分の思い通りに回わるものという錯覚も起きますはな。華の舞台でニッポンの恥を世界にさらしよった大臣も、多分こうして育ったんでっしゃろ」今日のオッチャンは厳しい。

「この御仁だけやおまへん。いま政治ゴッコやってる二世三世議員らはみな同じ。取り巻きの茶坊主たちはベンチャラばかり。ホンマの世間を体験しとりまへん。いっぺん旅に出て、他人の釜のメシを食わせてもらい、ホンマの世間の風に触れて、オトコを磨いて出直さなあきまへんな」

(出典: デイリースポーツ 2009年2月26日)

受験の季節に想う

ニッポンの各大学ではまだ受験シーズンの最中だ。少子化で受験生が減り定員割れの大学が続出している。教授は高校を巡回訪問し「貴校の生徒に是非ともわが大学を受験するようご指導お願いします」と頭を下げて営業活動をするという。筆者らが経験した競争率10数倍という受験地獄は遠い昔のことのようだ。営業努力で獲得した受験生は無試験で合格。大学生としての資質を問うよりも、全員に卒業証書を渡して送り出すのが教授の最重要任務だという。

14年間教壇に立ったアメリカの大学は理念も実情も大きく異なる。入学志望者は内申書だけで申し訳程度に選別するが、殆ど無審査で入学させるのは今のニッポンの大学と同じだ。だが学生たちには2年間の宿題地獄と試験地獄が待ち構えている。大学の理念に沿ったカリキュラムで厳しく教育し、学業に耐えられぬ者は排除するという選別方法をとる。志望学部への進学は入学後の過酷な競争の勝者にのみ授与される報償という仕組みだ。

ニッポンでは入学者全員を卒業させるのが大学の使命であり原則だという。受験が選別の機能を果たした時代はそれでよかったが、今のように無試験で入学する学生に卒業を保証したら、まったく勉強しない者も大学卒業生になる。こんなゆとり教育で大学教育を受ける大学生の学力では、入学後の生存競争の勝者である米国大学生と競合して勝ち目はない。このままだと日米大学生の実力差は開くばかりだろう。

入学定員を減らせば競争が生じて問題解決の可能性がでる。だが授業料の減収により大学は経営が成り立たない。それが困るとう理由で無能な学生を社会に送り出していいワケはない。過去にアメリカでは多数の大学が廃校になり学部が取り潰された。よい教育のレベル維持には痛みを伴うが、学園の都合を優先するのは原則に反する。

(出典: デイリースポーツ 2009年2月19日)

総理、言い訳は不様ですぞ

「ニッポンは不思議な国だね。指導者たちは世界不況の波を目前にしながら、国民一人に200ドルずつ配ると決めたカネを自分たちも受け取るべきか否かを議会でクソ真面目に議論する。もっと大事な議題があるだろうに。もし仮にわがアメリカ議会で同じ議題が論じられたら『それは各個人の勝手。はい次の議題』で終わりだろう」日本のウラ事情を知りつくすアメリカンの友人が肩をすくめる。

「郵政の杜撰企画により毎年40億円の赤字を垂れ流しているホテルチェーンを、日本郵政会社が民間企業に売却処分すると決めたことに大株主の政府が口を出して中止させる。一体社長は何なんだ。長い間ジャパンウオッチャーをしてニッポン各界の神秘的不条理にも一定の法則を見つけたと思っていたが、最近の珍事連発にはボクも自信喪失したよ」

そんな会話をしながら衛星中継のNHKニュースを見ていると「郵政の民営化は竹中の仕業。オレは民営化には反対だった」と答弁する総理に二人そろって仰天した。「それはないよ。ミスター麻生は閣議で郵政民営化法案に賛成署名した閣僚だろ。反対なら大臣を辞任すべきだった。わが国のブッシュ政権の政策に沿えなかったパウエル国務長官は黙って辞任したぜ。ミスター麻生の祖父のミスター吉田が存命だったら、この不遜の孫をどう扱うだろうね」

一息いれると、友は「ミスター麻生の今度の発言は、不都合の責任は他人に転嫁し、自分の立場はウソで固めてでも護り貫くというニッポンの世相を象徴している。今度の総理の発言映像を観た世界は、日本のリーダーはご都合主義の卑怯者だったのかと失望するだろう」ニッポンびいきだからこそ、眉をひそめて危惧する。

総理は一国の指導者として絶対の禁句を公会の場で発した。苦しい言訳を重ねる御当人は、その行為の重大な意味が理解できていないようだ。

(出典: デイリースポーツ 2009年2月12日)

“オバマカット”

オバマ大統領が誕生して2週間が過ぎた。この間アメリカンと会うたび「オバマ大統領は本当に米国を変えてくれると思いますか?」と尋ねてみた。10人のうち9人は「大丈夫。経済は立ち直り荒んだ人心は修復され強いアメリカが復活しますよ。そう信じています」という。このノーテンキさがアメリカンの強みだ。

この若くて背が高くてハンサムで、ダイナミックで頭脳が切れる新リーダーにアメリカ国民は大きな期待を寄せている。「演説の声もオトコらしくていいけど、“オバマカット”のヘアスタイルが清潔でステキだわ」とはわがカミさんの弁。

世界は今や一大ピンチの中にある。世紀に一度あるなしの経済危機に立ち向かうには、国民も大統領とともに国と世界に新秩序を回復するぞという気概が要る。民主党の共和党のと言っている場合ではない。党派を超え一致協力して大統領の打ち出す政策を素早く実行しなければならない。メディアにも今は新政府を批判するときではないというスタンスが感じられる。

それにしてもオバマ大統領の就任演説は素晴らしかった。特に感動を呼んだ部分を書き抜き要約すると「この未曾有の危機は早急には解決されないだろう。恐れより希望を、対立や不和より目的を共有して前進すれば必ず途は開ける。勤労、誠実さ、勇気、公正さ、忍耐と好奇心、忠誠と愛国心の原点に立ち戻ろう。われわれは新しい責任を自ら進んで果たすべき時代にある」

ニッポンでは自らの哲学を語り信念を国民に向かって呼びかける指導者は存在し難い。麻生総理が信念を語っても党内の都合で選ばれた人間が何を言うかと相手にされない。だが今のニッポンを救うためには党派を超えた強力なリーダーが要る。いっそのこと大統領制を導入してはどうだろう。郵政民営化を問うた選挙の圧勝は小泉首相を支えた国民の声ではなかったか。

(出典: デイリースポーツ 2009年2月5日)