寒波、ホノルルを襲う

「毎日寒いですね」
ディナーパーティーで隣席の熟年女性に話しかけてみる。
「あたし、ハワイに移り住んで40年になりますが、こんなに寒いのは始めてですわ」
ホノルルの街往く人はみな長袖のジャージーにジーンズ姿。いつもならこの時期はTシャツに半パンツ姿なのに。

「ハワイ暮らしは9年目になりますが、冬の気温が年々下がっているように感じます」
「センセのお言葉通りですわ。今年のホノルルは、お正月から今日まで、厚い灰色の雲に覆われて雨また雨。北大西洋の冬の空みたいでしたわね」
「ニッポンからの観光客はがっかりですな」
「永年日本からのお客さま相手の観光案内サービス業をしておりますが、この業界は天気や気温に特に敏感です。ここ1週間は曇りときどき雨、早朝の気温は16度、日中でも22度位でした。こんなお天気だと、海水浴やパラセーリングなど海辺のレジャーはあきらめてもらって、ショッピングや島巡りツアーそれにゴルフや乗馬をお勧めするしかありません。ハワイ旅行らしくないですね」

地図でみるとオアフ島は北緯20度と北回帰線の中間に位置している。もうすぐ春分の日だから太陽はほぼ赤道の真上にある。6月20日の夏至には北回帰線上にくる。その頃にはほんの数日だが、太陽が我が家の北側に位置するのだ。

近くの尾根に聳え立つ数億円もの豪邸には超モダンな冷房装置はあっても、暖房は想定外でついていない。この寒さに街では厚手の布団や電気毛布が飛ぶように売れているという。一番安上がりでポピュラーな暖房は色とりどりの湯たんぽ。

10億円の豪邸に住むオーナーがアヒルの形をしたプラスチックの湯たんぽを両脚の間に抱え込んで眠る姿を想像するとマンガである。古希の今日までダテの薄着を通して来たこのオレがいまさら湯たんぽなんぞ使えるかい、と見得を切ってはみるが夜明けの冷え込みは辛い。だれぞ湯たんぽ替りになってくれる御仁はおらんかえ。

(出典: デイリースポーツ 2009年3月19日)

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