アメリカ式選挙資金集め

選挙に巨額のカネが要るのは日米同じだが集め方はちと違う。現役の外科医だったころ上院議員の再選支援パーティに招かれた。支援者の邸宅に着くと地域のセレブたちがぞくぞく乗り付けてくる。受付役は前から顔見知りの当家の奥方。「ドクター、支援金は個人小切手でお願いしますね」「どうして?」「企業や団体からの献金は選挙資金として受けてはいけないのよ」「個人なら何万ドルでも?」「勿論よ。1万ドルぐらい奮発して頂戴よ。手術一回分じゃないの」「冗談でしょ」で会話は終わった。

分相応の額の小切手を手渡し胸に名札をつけて客間に入ると議員とそのカミさんが「ドクター、ようこそいらっしゃい」こぼれんばかりの笑顔で迎える。まるで十年来の友人同士のように肩に手をかけ握手をする仕草には熟達の技が感じられる。この人それまでに同じ挨拶を何万回繰り返したことだろう。「役者やのう」と感心しながら、こちらも負けてはいられない。

初めての患者に何年も前からのかかりつけと思わせ、信頼と安心感を持たせて緊張を緩和する技術も医師の職業的技巧のうち。「セネター、ここでお会いできてこれほど嬉しいことはありません」と手を握りながら目の奥をじっと見る。議員の頭のなかのコンピュータが「以前どこで出合ったかな?」とフル回転を始めるのが見てとれる。虚虚実実、互いに作り笑顔を交し合う田舎芝居。立ち話で議員への頼みごとに触れると、付き添う秘書にその場で下命してくれるサービスつきのパーティだ。

各地でこんなパーティを重ねると企業や団体の支援はなくとも数億円の選挙資金はすぐ集まる。オバマ大統領はこの方法で集めた草の根資金の数百億円を使って、ヒラリーを退けマケインを倒した。その蔭で「オバマの勝利はオレの小切手が支えたのだぜ」と無数無名の支持者たちは満足感に浸るのだ。

(出典: デイリースポーツ 2009年4月2日)

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