こどもの王国

真夜中人気のない公園で裸になった泥酔男を捕まえてみると、国家事業のパブリシティを担当するほどの人気タレントだった。通常なら説諭放免の微罪だが、逮捕拘留送検し家宅捜査まで行った。起訴猶予処分と決まったあと、国のパブリシティは勿論テレビ、舞台、コマーシャルのすべてを降ろされ、孤立無援のままテレビの前で熾烈な質問地獄に晒された。この事件は当局がその気になればその辺で立小便をしたあなたでも逮捕拘留送検される可能性を示した。

契約社会のアメリカでは破廉恥行為などにより事業のイメージが傷ついた場合、関係者は相当の賠償額を支払うという一文が契約に含まれている。タレントの飲酒癖を知りながら単独で放置し泥酔させたのは事務所もその責を負うという論法だ。事態に備えて事務所は多額の保険に加入し、記者会見にはプロの渉外係を立ててタレントを徹底的にかばう。タレントは将来にわたって事務所に高額の収入をもたらす大事な宝物だ。

この事件と相前後して独特の毒舌による辛口批判で売り出した50男のタレントが、ご法度の琴線に触れたがゆえ全テレビ局から干された。会見の席で収入の道が絶たれ家族が路頭に迷うという泣き言を涙ながらに訴える姿には、辛口で売ってきた勇姿の影すら見えぬ。男はこんな姿を自分の家族にも世間にも晒してはいけない。「干すなら干してみろ。オレはしたたかに生きてみせるぜ」と言ってのけるのが大人の男というものだ。

メディアという巨大な虚構は、群れから外れたものを容赦なくいじめ倒す。取り巻きはやんやの喝采。なにやら子どもの王国に迷い込んだ錯覚を覚える。呑み込まれる前に早くハワイへ帰ろ。

(出典: デイリースポーツ 2009年5月7日)

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