全結腸無神経節症に対する colon patch graft 法 (1981年)

先天的に下部結腸の壁内神経節を欠くHirschsprung氏病(H氏病)は、欠損部腸管平滑筋の攣縮による通過障害により生後まもなく消化管閉塞症状を呈する。すなわち、胎便排泄遅延、腹部ぼうまん、嘔吐、脱水がみられ、注腸造影、直腸せいけんによって診断される。本症は5,000人に1人の頻度でみられ、適時な外科治療が救命、根治の要点である。H氏病患者の約5%には、全結腸ならびに下部回腸に神経節の欠損がみられ、全結腸無神経節症とよばれている。

全結腸無神経節症患者には正常腸管の最下部に人工肛門を造設、二期的に根治手術を行うのが標準治療であった。1980年以前にこの方針で治療された症例では、50%が死亡し、多くの患者の死因は回腸ろう造設後の水電解質異常であった。

1978年、回腸ろうからの劇症下痢で重篤な状態で転送されてきた患者に、回腸ろう口側の回腸に神経節を欠く上行結腸を側側吻合したところ、劇症下痢は顕著に改善し患者は重篤状態から、脱脚することができた。数箇月後におこなった根治手術には、結腸パッチを回腸から切除、当時の標準手術であったマーチン手術をする計画をもって臨んだ。

結腸パッチ切除の目的で付着する結腸間膜を切離した際、当然疎血性変化が起こるもとの予想したが、肉眼的にはまったく変化はみられず正常腸管の所見を呈していた。結腸パッチは回腸との吻合部にできた側副血行から充分な血流を得ているに違いないと考え、結腸パッチ腸管膜の血管の止血に用いた結さつ糸一本を切離してみると鮮血が噴出した。20分間観察を続けても結腸パッチの色、性状に異常は認められないのを確かめ、結腸パッチを付着した回腸を直腸再建に使用する決断をくだした。まったく初めての経験であったので、安全弁として上流に回腸ろうをおいて手術を終了した。2ヵ月後、回腸ろうを閉鎖したあとも正常便が排泄され、患者は良好な経過をたどった。25年を経過した現在、この人はトラックの運転手として勤務している。

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