「エンジョイしました」

海外向けのNHKテレビ番組は放映権の都合により、オリンピック競技の映像を放映しない。だから米国に住むニッポン人は、北島選手の晴れ姿やニッポン女性選手が柔道やレスリングで活躍する場面を目にすることは出来ない。やむなくオリンピックを24時間カバーしている当地のテレビ局にチャンネルを合わせると、写るのはチームUSAが連戦連勝する競技ばかり。自国選手に都合のいい場面しか写さないのはどこの国も同じだ。

金メダル8個を獲得したフェルプス選手の競泳や、飛びぬけて強い男女バスケットボールの試合など、いわば米国の国威昂揚場面ばかりが写る。なるほどオリンピックは言葉のない外交の場とはよく言ったものだ。感動したのは女子水泳自由形の米国代表41歳のトーレス選手。50メートル自由形決勝で、親子ほど年の差のあるドイツの選手にタッチの差で敗れたが銀メダルを獲得した。その健闘ぶりは今度のオリンピックのハイライトだった。表彰式でドイツ国旗が中央に掲揚されるのを見つめる表情には、金メダルを逸した口惜しさと、40過ぎてなお表彰台に立つ誇りが読み取れた。不屈の魂は世界中の熟年に奮い立つ力を与えてくれた。

NHKテレビも競技以外のインタビュー場面は放映する。敗れたニッポン選手が「悔いはない」「負けたが満足している」というのを聴くと強い違和感を覚える。まして予選落ちして「エンジョイしました」「楽しかったです」とは何事ぞ。町内対抗競技会ではないのだ。国の栄誉と誇りを一身に背負って闘いに臨み破れた人間が口にする言葉ではない。「口惜しい。次回ロンドンでは必ず勝ってみせる」となぜ言わせない。監督やコーチは何をしているのだ。ま、指導者たちも意味不明のコメントしか言えないのだから仕方がないか。それにしても負けて恥じないニッポン、これからどうなるのだろう。

(出典: デイリースポーツ 2008年8月21日)

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