白衣着与式

「最近、我が大学病院を訪れた患者さんから、学生や若い医師の身なりや言葉遣いが悪いというお叱りの手紙を度々貰います。その都度注意しているのですが一向に改善いたしません。センセ、何かよい解決策はないものでしょうか?」先日某医科大学に招かれ「日米医学教育比較」と題する講演を終えたあと病院長から相談を持ちかけられた。

苦情の手紙には共通点があり「貴院外来を訪れたところ、ジャニーズ風長髪で両耳にピアス、白衣の下はTシャツGパン姿で自己紹介もしない若者がいきなり『どないしたん?』と尋ねました。医学生か研修医か知りませんがこんな無礼な人間にわたしの大事な身体を触れさせたくないと思い、診察も受けず逃げて帰りました。医師は医療技術者である前にまず紳士淑女、信頼される社会人たるべきでしょう。貴学ではどんな教育方針で臨んでおられるのか伺って見たいものです」という主旨だ。

ニッポンの高卒で入学する医学生とちがって、米国の医学部は4年制大卒が入学資格だから、学生達は遥かに大人だ。入学式には男子はワイシャツにタイ、女子はブラウスを着用するよう通告される。式では長老教授から医学生の心得を聞かされたあと、一人ずつ壇上に呼びあげられ、医学部長から各自ネーム入りの白衣を肩から着せてもらう。「白衣に恥じない行動言動をすると誓え。私服姿で講堂や大学病院に一歩でも踏み入れたら即時退学と心得よ」と引導を渡されて白衣着与式は終了。違反すると本当に退学させられる。

このハナシをニッポン各地で講演するたび伝えてきたら、白衣着与式を実施した医学部が現れた。医学生たちには好評だったようだ。だが「センセ、退学は無理です。身なり程度で退学させたら親が黙っていません」だと。ニッポンの大学が自治と権威を消失して久しい。大学人として情けなくはないか。

(出典: デイリースポーツ 2009年3月12日)

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