「すべては患者」と「すべては役所」

「アイオワ大学は州立でしょう。それなのに、人事も予算も学部新設も、みんな大学の幹部が、好き勝手に決めていいのですか。日本の国公立大学では、職員数や給与の設定はもちろん、物品購入では鉛筆一本にいたるまで、一切を監督機関である役所にお伺いをたてて、了解をとらねば、前に進めません。私たちの大学病院も、アイオワ大学のように、経営をわれわれの自由に任せてもらえれば、患者のケアを改善できるのですがね」

病院経営セミナー受講生のZさんは、圧制国家からの脱出者が、はじめて自由社会を見たときのように感嘆する。

アイオワ大学は州に所属するが、独立法人である。経営に関しては、州の支配は一切うけていない。大学病院は各部門が独立採算、独自の人事権をもって機能している。たとえば、病棟に働くナースの数、配置、勤務評定、備品購入などは、現場を仕切る婦長の決断事項だ。ナースの給与は看護部長が決める。
各科ドクターの給与は、診た患者の数、実施した手術の件数などにより、各科の部長が決める。何等級何号俸の年功序列ではない。実利主義の経営方針は、患者ケアをする現場の人間の決断だから、不都合があれば、直ちに変えることが可能である。

実利主義は、制御を欠くと、実利に暴走する。これを防ぐためには、共通の理念で職員全員を束ねることが必要だ。アイオワ大学病院は「すべては患者の受益のために」を理念に掲げている。

「ニッポンの国公立病院は、『役所の規則に忠実に』という理念で動いています。たとえば、受付時間を1分でも過ぎてきた患者を診ないところなど、市役所の受付と同じです。今度のセミナーでは、ニッポンに戻って、改革すべき点を、たくさん教わりました」

「役所から独立すると、その日から自分でカネ勘定しなければいけません。大変ですよ」

(出典: デイリースポーツ)

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