「よろしいんですか?」

ニッポンの友人に頼まれて、大事な知り合いの息子夫婦という30過ぎのカップルを我が家のディナーに招きもてなした。テラスからの景色を眺めてはしゃぐ言葉は「ワー」「キャー」「スゴイ」の三語のみ。

「ディナーの用意ができたので、テーブルへどうぞ」というと「よろしいんですか?」と気取った返事が返ってくる。これにはムカッときた。なぜ、素直に「ありがとう」の一言がいえぬ。「よろしいからに決まっているでしょ。もし、いいえと答えたらどうします?」と皮肉をこめて言ってやった。

いまのニッポン人は意味不明の表現を使うので扱いに困る。

グラスを挙げて乾杯すると、
「なかなかコクのあるワインですね。フランスワインですか?」
子供服のようなドレスを着た未成年者風のカミさんが、舌足らずな言葉で知ったかぶりをする。

「ナパワインのピノーです。ピノーというのは、一番コクが少なく、味のあっさりした赤ワインの種類の呼び名です」
「そうですか。口当たりから、フランスのボルドーワインかと思いました」
「あのネ、アメリカでは、赤ワインは口当たりの一番軽いピノーから順にマロー、カバネスペニヨンと重くなって、一番ヘビーなボルドーは最後に食後に飲むワインということになっているの。フランスだからコクがある、イタリアだから軽い、ドイツだから重いなどという決まりはないのです」

物言えば唇さむし。黙って「美味しいワインですね」の一言で止めておけば、恥もかかずにすんだのに。

ディナーが終わると、揃って「大変お世話になりました」という。これがまた気に障る。ニッポン人は、いつの頃、「ご馳走さま」や「ありがとう」と言う、美しい言葉を失ったのだろう。悲しい。

(出典: デイリースポーツ)

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