アイオワの無賃ゴルフ

「今日は、大変楽しいゴルフでした」ホテルへの帰途、地平線まで広がる緑の大地を眺めてO氏とI氏は上機嫌だ。「ところで、センセ、今日のプレー料金を清算させてください」両氏からの突然の申し出に、おもわずハンドルから両手が離れかけた。

先月アイオワ大学で病院管理学セミナーを開催した。その前夜祭ゴルフの初日のことだ。クラブハウスの玄関で二人を降ろし、クルマを駐車して戻ってみると姿が見えぬ。「チェックインを済ませて練習に行ったな」と思いながら、プレー料金の支払いを済ませて外に出ると、スタッフが「何時でもスタートしてください」と言ってくれる。何処からともなく現れたご両人と、1番ティーに上がりプレーを開始した。

アメリカのゴルフコースでは、チェックイン時にプレー料金を前払いするのが常識だ。あとの買い物や飲食の支払いは、すべてその場で、現金で済ませる。18ホールを通しでプレーし、ニッポンのように、ハーフが済んだ時点で食事を強要される心配はない。クラブハウスには、ロッカーやシャワーも備え付けてあるが誰も利用しない。着替えはクルマのなか、シャワーは家に帰ってからだ。クラブハウスに入るのにジャケット着用を強制するニッポン特有の不思議な規則もないから、気楽である。

ワケを知った両氏の消沈ぶりは、おかしさを通り越して、気の毒なほどだった。「ニッポンでは、プレー料金は後払いですから、センセがまとめて払って下さったものと思っていました。紳士にあるまじき無賃ゴルフをしてしまいました。ニッポンの恥になります。是非、クラブハウスへ引返してください。支払いを済ませずには、ニッポンに帰られません」「ま、そんなに大層に考えんでよろしい。昔から旅の恥は掻き捨てといいます。ただし、今日の出来事は、生涯の語り草にさせてもらいます」というワケで、このコラムの語り草にした。

(出典: デイリースポーツ)

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