ダークスーツに白のソックス

「20年も前のことですから、センセは多分ご記憶ないとおもいますが、ダークスーツに白のソックスという格好で、この国際学会のレセプションに出席し、『それは農夫のスタイルや』と、お叱りをいただいた○○です」

ことしの6月、カナダで開かれた国際小児外科学会のレセプション会場で、スーツ姿がぴしっときまっている日本紳士からもらった名刺には、Z大学医学部外科教授○○と刷り込んであった。

「ほう、そんなことを申しましたか。それは失礼しました」
「わたしは、センセから直截なご指摘を頂くまで、服装やマナーに頓着せぬ若造でした。お叱りにより、眼からうろこが落ちましたので、いまこうしてお礼を申し上げているのです」
「一面識もない御仁にでも、ずけずけとものを言う悪いクセがあるものですから、無礼の段はお許しください。ところで、ほかにはなんと申し上げたか、ご記憶はありませんか」
「夜のパーティーには、ダークスーツ、白のワイシャツにネクタイ、磨きこんだ黒の短靴、それにスーツと同系色のソックスで決めれば完璧だと言われました。以来、お言葉を忠実に守っております。ありがとうございました」

国際学会の舞台で各国代表の身なりを比較してみると、ニッポンの医者が一番野暮ったい。超高価な世界のトップブランドを身に着けているのに、なぜか貧相にみえる。ダークスーツに白のソックスのような、ミスマッチがその原因だ。センスはもって生まれたもの。おいそれと変えるのは難しい。でも、チャレンジした人たちがいる。

わたしより何世代か前の米国外科教授たちは、研修医を自宅のディナーに招くとき、タキシード着用を求めた。その席上で、いま教授をしている人たちは、社交のマナーや会話の進めかたの常識を教えられた。いまのニッポンには、常識を若者に教える器量のある人間がいない。残念だ。

(出典: デイリースポーツ)

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