捏造論文

去年、韓国ソウル大学でヒトクローン胚からES細胞の作成に成功と発表された研究が、実は偽造データによる捏造論文と判明した。ほぼ同じころ、東京大学で開発した遺伝子工学技術も捏造論文と判断された。データがホンモノであれば両研究とも、世界初の偉業となるところだった。以前、米国のハーバード大学でも捏造論文が出たことがあった。米国では、捏造論文の著者全員を大学から放逐し、研究者としての復帰を許さぬという厳しい罰を科す。

研究者たちはなぜデータを捏造するのか。筆者の独断と偏見によって推察してみることにしよう。

研究は、発案者と実行者がチームを組んでプロジェクトを推進する。教授のアイデアを助手や大学院生が実験により実証するという具合にだ。研究成果は論文に書いて発表する。論文の優劣はインパクト係数と呼ぶ数値で判定される。係数の高い論文を頻発する大学は文科省の覚えめでたく、著者はよいポジションや多額の研究費を獲得する。学内での出世も早い。世界初と呼ばれる偉業も、下世話のところ、こうした低次元のインセンティブが研究推進の原動力なのだ。

教授の日常は殺人的に多忙である。だから実験データの収集は、部下の助手や院生に丸投げする。

論文発表の期日がせまると、教授は「○○君、データはまだか。月末までに目鼻はつかないか」と部下をせかせる。部下にとっては、自分の将来の鍵を握る教授の頼みは絶対だ。つい、何とかしますと空手形を切る。約束はしたけれど願望と現実はすりあわぬ。期日が来てもデータはそろわない。つい魔がさして捏造するというシナリオだ。

論文は、著者全員が栄誉を分かつ権利と同時に責任も分担する。捏造論文に名を連ねたからには、知らぬ存ぜぬでは済まされぬ。こんど捏造論文に関係した大学は、いま自浄能力を問われる正念場にたっている。

(出典: デイリースポーツ)

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