職人気質はいま何処?

九州の無名牛のビーフをブランドの但馬牛と偽り高値で販売していた大阪の老舗料亭の醜聞も時とともに下火となり、店は幹部の入れ替えで営業再開。こんな禊の真似事で顧客にニセモノを売っていた騙しが許されるなら「“老舗”とは一体何だ?」という疑問は残ったままだった。

醜聞を起こしたのは一族が営む老舗料亭の一分家(?)である。いささか過激だが一族はこの分家を醜聞発覚の時点で取り潰すべきだった。取り潰しによって残りの店は暖簾を護る立場を明確に出来る。残りの店のみならず老舗料亭業界の信用を重んずるなら、信を傷つけたものを切るのは当然だろう。が、そうしなかった。なにか不都合があったのだろう。

今回営業を再開した店で再び新しい醜聞が発覚した。テレビの報道によると、客の食べ残した残飯の中から手の付いた形跡の見当たらぬ刺身や鮎の塩焼きを漁って器に盛りつけ、別の客に料理として出していたという。実行していた当の板長がインタビューに答え「上からの圧力に負けて、絶対にやったらいかんことをやってしまいました。今後は絶対にいたしませんから、また店にきてください」と言うのを聞いて唖然とした。子どもの言い訳にもならぬ。

料亭の板長といえば職人の鑑。厳しい潔癖性で自分を律するのが看板ではなかったか。理不尽な圧力と対峙してこそ板場を預かる親方だ。なんでも「ま、ええやないか」で済ませる風潮に満ちている今のニッポンには、もう職人気質というものは存在しないのか。元職人外科医としては慨嘆するしかない。

「出した料理はなんぼ手付かずでも引いたら残飯ですわ。残飯から漁ったものをまた皿に盛って出すやなんて、そんな騙しはうちらの食堂では絶対にしまへん」南方食堂の店長は断言する。職人店長、よくぞ言ってくれた。ありがとう。

(出典: デイリースポーツ 2008年5月8日)

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