貧しい国ニッポン

20年前NYからアイオワ大学に移って間もないころのおハナシ。4歳のジミー坊やは生まれつきのヘルニアの診察に大学病院を訪れた。ウエイトレスをしているママは20歳のシングルマザー。ママの収入が祖母との3人暮らしを支えている。診察が終わり手術日も決まった時点で、ついてきた民生委員のベッキーさんの説明を聞いて、はじめて家に電話もないほどの困窮家庭とわかった。「ドクター、家に電話をつけましょうか?」ベッキーさんの質問を理解しかねていると、ナースのローラが「医療連絡のために生活保護の費用で電話をつけるそうです。イエスと答えてください」とコーチしてくれた。手術は無事終わり, ジミーは当日の夕方自宅に帰った。翌日からローラはジミーの家に毎日電話をかけて病状を把握する。1週間後にジミーは元気になりローラの電話リストから外れたが電話はそのまま。

医療保護の基準は州毎に違うが母子家庭で月収800ドル(約8万円)以下というのが一般的だ。アイオワ州民の被保護者にはボランティアの民生委員が手続の一切をしてくれる。非保護者の認定を受けると医療費は一切タダ。必要なら家に電話も引き、仕事を休めば給料を同額補償、病院までの交通費は全額支給、マイカーなら病院通いのガソリン代を支給。病院の診療では、他の患者との差別は一切なし。それでも他の患者からの文句はまったくでない。

健康保険を持っていない患者と併せると、アイオワ大学病院入院患者の5人に1人は医療費の支払いが不可能な人たちだ。だが、全員が世界最高レベルの診療をほかの患者と変わりなく受けている。米国では健康保険を買えない4千万人の人たちが医療を受けられないという報告は正しくない。

先月ニッポン政府は、生活保護家庭の医療交通費支給を打ち切ると宣告した。この国が、被生活保護者の医療交通費のカネも出せないほど貧しいのなら、他国へのODAなど止めたら如何?政府は自国民を護るのが先だろう。それとも貧しいのは役人の心?

(出典: デイリースポーツ 2008年6月5日)

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