NHK「のど自慢」に想う

ホノルルの我が家に戻って2週間。テラスのテーブルにパソコンを持ち出し、冷たい朝の貿易風を肌で感じながらこの稿を書いている。

大阪の暮らしと比べると時の流れが停止したようなスローライフ。今は2、3ヶ月交替で緩急2通りの暮らしを楽しんでいるが、そのうちホノルル大阪片道8時間の往来が億劫になるだろう。それを想うと気が重い。だがモノは考え様。たとえば、元気でいられる期間は天からの授かりものと思えば、アソビにも仕事にも力が湧く。世間はこれをプラス思考と呼ぶ。思い返すと今までの人生はプラス思考が牽引してきた。よし、これからもこれで行こうと、決めると気も晴れるのだ。

ホノルルで日曜日の朝7時はニッポンの月曜日午前2時。前日正午にニッポンで放映収録されたNHK「のど自慢」が当地で録画放映される時間だ。通常なら日曜の朝7時はまだ寝床だが、久しぶりに早起きした今朝「のど自慢」を観た。

老若男女とりまぜの出演者は皆、独自の身振り手振りをつけて唄う。その稚拙な姿はまるで幼稚園の学芸会だ。控えの出演者たちは唄のリズムに合わせ、左右に身体をゆする。一人が手拍子を打ち始めると観客席に広がり全館宴会ムード。バラードの曲でもお構いなし。「ナニ?唄の邪魔?まあええやないか」で済ませる「お笑い」のノリだ。

唄の巧さや歌唱力のみを競い合った昔の「のど自慢」では、鐘3つが一人も出ない週も多かった。巧みなユーモアで出演者の緊張を和らげる司会者はブラウン管と茶の間を同一価値観で結ぶ。番組の製作理念には、プロデューサーの隠れた気品と教養が見て取れた。今の視聴率を意識した「お笑い」もどきの「のど自慢」には、カネを払ってまで観る価値はない。「テレビは一億国民総白痴時代を招くだろう」―半世紀前大宅総一氏が予言した通りの「のど自慢」だった。

(出典: デイリースポーツ 2008年7月3日)

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