戦略で負けた東京五輪誘致

今度の東京オリンピック招致はアカンかったですな。売り込みにもっとエエ手はなかったんでっしゃろか。今までつぎ込んだ150億円がパーやそうでんな。都知事も困ってはりまっしゃろな」 大阪のオッチャンは2016年のオリンピック開催に東京が落選したのをわがことのように残念がる。

10月2日コペンハーゲンの国際オリンピック委員会総会で、東京、シカゴ、リオデジャネイロ、マドリッドの4都市が競い合った。ニッポンの総理大臣も現地に赴き招致演説を行った。この演説要旨を新聞で読むと、莫大な経費を費やした招致運動にかかわらず東京が選に漏れたのは当然という気がした。

「なんでニッポンが負けて当然ですねん。そのワケを聞かしてもらいまひょ」
この頃歳のせいで思想は右傾化、気性は短絡化しつつあるオッチャンが気負いたってせきたてる。
「演説内容の初めの85%が東京五輪に具体的関係のない自らの総理就任、友愛精神、五輪の『マジック』、国連、温室効果ガス削減、人類の友愛についてでした。具体性のあったのは最後にちょこっと触れた財政保証の約束だけです。これは、国内ではうけても、異文化社会の人間を惹きつけるには、パンチが弱すぎます」
「ほう、センセならどうしはります?」
「総理演説は誘致交渉のフィナーレのシメです。ここでは相手が一番欲しがる政府の財政保証の約束を開口一番にだすのが優れた戦術でしょう。この先2016年までに今よりもっと大きな世界不況がきても、日本政府が財政保証した東京五輪開催は絶対に大丈夫と安心できますからね。
次にニッポン国民は東京五輪開催を熱狂的に渇望していると続けて、今日はその日本国民の情熱のすべてを束ねて持参したのだから、東京落選を持って国には戻れない。これぐらい強烈な意思表示の言葉を投げて様子をみるのがいいでしょう」
「ほう、センセもなかなかの策士でんな」
「世界中からアメリカに来た人たちと競争して勝ち抜くためには、交渉ごとの戦略や戦術を身につけないと達成できません。
わたしは昭和39年の東京オリンピック開催時、横浜の外国人専用病院で外国人患者診療のため待機していました。あのオリンピックで日本中が熱狂した記憶が今でも鮮やかに甦ります。当時と比べると今のニッポン人は熱狂するほどの情熱もエネルギーも遣い果たしたように思えます。そつない日々が安泰に過ぎれば幸せで言うことなし。何事も自分に責任が降りかかることは避けて通る。そんな想いが共通の人種になってしまったように見受けます。
今度の総理の演説要旨を読んでみて、だれが原稿を書いたのか知りませんが、当たり障りのない言葉の羅列で、言質をとられないように逃げているという印象を受けました。これでは必死に向かってくる諸外国代表に勝てる筈はないでしょう」
「なるほど、センセはそういう見方をしますか。当たってますな」

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