ニッポンの銀行

まだ肌寒い四月のはじめ、所用で日本を訪れ10日余りを過ごした。円高でもあることだし、丁度この機会に、銀行口座に残っている少しばかりのカネを、ホノルルの口座に移しておくか、という軽い気持ちでSM銀行を訪れた。通帳と印鑑を見せて、送金先を所定の書類に書き込み待つこと10分。再び現れた窓口の中年女性、パスポートか運転免許証か、身分を証明するものを見せろという。はてなと思いながら、指示通り旅券も免許証も提出すると、今度は、キャッシュカードの暗証番号を言ってみろと命令する。あげく、通帳にある入金の謂れを説明しろと命ぜられるに及んで、ここが銀行か検察庁か判別できなくなった。別の約束の時間がなければ、理由を問い質すところだった。じっと堪えているのを知ってか知らずか、この女性、パスポート、免許証、通帳、すべて一時預かった上で、コピーをとるがいいかと尋ねる。本人確証をとるのに 40分ほどかかるから、どこかで時間をつぶしてこいという。きっかり40分後に同じ窓口に戻ると、もう15分かかるという。ここに至って、ついにブチ切れた。

「送金は取り止めだ。渡した大事なものを全部返してもらおう」というと、
「あ、いま、終わりました」

たった今、あと15分かかるといったではないか。嘘つきめ。

アメリカの銀行は、大分前から完全なペーパーレスである。書類の記入は一切いらない。あまつさえ、口座から口座への送金は、自宅にいて電話一本で、世界中どこにでも自在に出来る仕組みだ。ニッポンとアメリカでは、ITのレベルが違うからだろう。

「お宅の銀行はコンピュータというものを使わないのですか。お使いになっているなら、私のデータは入って居る筈だけど。旅券や免許証、それに暗証番号までハードコピーなさったのは、なんのためか説明してもらいましょうか」

「・・・ ・・・ ・・・」

不都合なときには、無言がベストのようですな。

(出典: デイリースポーツ)

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