医師が足りない?-これが真相だ

先週、公立病院の医師不足解消について私見をのべたところ、読者から「そんなに医者が足りないのなら、医学部の定員を増やして医師の増産をすればよい」という反応があった。単純明快な解決案だが、医学生の定員を増やす必要はない。

高校から現役で医学部に入学すると、6年後の24歳時に卒業し、国家試験に合格して医師免許を受ける。選んだ専門科の修業をつんでひとり立ちするのが30歳とすれば、それからあとの約35年間が医師としての活動期間である。

一人の医師が1年間に診療する病人の数を国際比較したデータによると、米国の外科医が1年間に行う手術の数は、日本の外科医の2.5倍だ。日本は外科医の生産性で大きく遅れている。米国の外科医は1年間に200件以上の手術を手がけ、それを下回ると慣熟性を問われる。因みに、引退前の1年間にわたしが手がけた手術は350件だった。

日本の外科医が、われわれ米国の外科医のようにいまの2.5倍のペースで手術をするなら、外科医不足は即時に解消する筈だ。それが出来ないのにはワケがある。

米国には秘書を持たない医師は一人としていない。診療活動は秘書のほかにも各職種数人のアシスタントが支えてくれる。わたし一人で1年に300件以上の手術ができたのも、書類仕事やその他の雑用一切を受け持ってくれたアシスタント達のお蔭だ。

それと比べると、日本の医師たちは、秘書なし、アシスタントなしで孤軍奮闘、まるで「裸の王様」だ。書類やカルテの整理に追われてやむなく週末も出勤する。これでは診療に専念できない。

日本政府は医学生一人を育てるために数千万円の税金を注入している。それほど大金をかけて育てた医師を「裸の王様」のまま放置してはいけない。適当な補助要員を付ければ、医師はもっと診療に専念し、熟度は増し、不足は消滅する。関係者には是非一考してもらいたい。

(出典: デイリースポーツ)

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