英語の達人になるためには

「センセは数年まえに引退されたのに、いまでも大勢の人が寄ってきて大変ですね」

先日、台北の圓山大飯店で開かれた国際学会のレセプションの席上、ニッポンの若いドクターが呆れ顔でいう。

この学会は太平洋をとりまく各国の小児外科医が顔をあわせる年に一度の機会だ。昔はこちらから会いたい人ばかりだったが、シニアになった今、グラス片手に立っていると、各国若手の外科医たちが「お初にお目にかかります。センセの開発された手術について伺わせてください」と寄ってくる。引退はしても手術の話になると外科医の血が騒ぐから、話しだすとつい長話になってしまう。

「センセは英語もニッポン語も同じように話されますが、何か特別な秘訣があるのですか?」

若いドクターが尋ねてくれる。

「ニッポン語も英語も、言葉は思考伝達の道具だ。その道具に載せる思考がなければ役にはたたない。
まず伝えるべき思考をニッポン語で考え、それを英語に変換して話す。慣れてくると英語で考えて英語で話す。簡単なことだよ」
「センセにかかると、なんでも簡単になってしまうのですね。それで英語が自在に話せるなら苦労はしません」
「キミたちが日常使っているニッポン語の会話を一度検証してごらん。たとえばキミが『ボクは、この患者にはあの時点で、あの薬を使ったほうがいいんじゃないかなーと、こうゆうふうに思っておりました』と症例検討会で発言したとしよう。言っていることの要約は『あの薬を使うべきだった』だ。発言の残りは意味不明で不要だ。それでもニッポン人同士なら感覚的に相互理解できる。だが、意味不明の言葉を英語に変換することは不可能だ。ニッポン人が英会話に弱い理由は、実は、このニッポン語の意味不明という特異性にあるのだ。英語に強くなるためには、簡潔明瞭なニッポン語を使うようになることだね」

(出典: デイリースポーツ)

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