大学の頭脳保護対策

早稲田大学理工学部の松本和子教授は、研究費の不正使用があったとして、大学から1年間停職の懲戒処分を受けた。研究費を教授の個人口座に預金し運用したというのが、その理由だ。最先端の理論や技術の開発に分秒を競う研究者にとって、空白の1年間は大学人としての終焉を意味する。ニッポンの大学には、教授や研究者を保護する頭脳保護対策が存在しない。だから、こうした悲劇が生まれる。

アメリカの大学は、教授の頭脳を人類の財産とみなす。余人では埋め合わせのきかぬ頭脳の喪失を避けるため、保護対策を作動させている。

まず、優れた教授には終身身分保障(tenure)を与え、学内の人間関係の葛藤を理由に解雇されない策を敷く。たとえば学部長がある教授に偏見をもち解雇しようとしても、終身身分保障がそれを阻止する。

優れた教授は政府や企業からの依願研究契約金として多額の資金を獲得する。わたしの大学では、医学部だけで毎年300億円もの研究資金を受領する。資金の総ては大学事務総長直属の専属スタッフ20名が働く依願研究事務局が受領し、研究者の個別口座を開設して保管する。研究に必要な購入はすべてツケで行い、あとで事務局が小切手で支払う。研究者には現金に一切触れさせないシステムが確立している。それでも、使途が学内規定に合う限り、自在に研究費は使える。

それと別個に、企業や個人から学術活動支援金として贈られる資金は、大学財団に設けた口座で管理する。このカネは、ゲストの接待、書籍購入、旅費などに使う。事務局と財団が保管する数百億円の資金は、専門家が投資運用して成長を図る。

ニッポンの大学にはこのような資金管理システムが不備である。研究者個人に資金の受領、管理、支出を負わせ、資金管理に齟齬があれば、松本教授のような頭脳が失われる。

空しいと思わないか。

(出典: デイリースポーツ)

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