外科医の疲弊は末期症状

先週、全国の外科医5千人が集まる学会から「日本の医療制度への提言」と題する基調講演に招かれた。一口に医療制度といっても間口が広すぎて困る。結局いま全国で問題の「医師不足」をとりあげて講演した。

医者の人口比数は日米でそれほど大差はない。違うのは医者一人が診る患者の数だ。たとえば、米国の大学病院で外科医1人が手術する患者は1年に400人であるのに、国立大学病院の外科医は100例に及ばぬ。この違いのワケを調べてみると、国立大学病院が法人化したあとも続いているX等級X号俸という年功序列の月給制が元凶だ。手がけた手術数が100だろうと400だろうと同じ月給ではやる気がでない。評判の外科医ほど大勢の患者が押しかけてきて死ぬほど忙しい。それでも月給制だから収入は年間1千万円で頭打ち。他科の医者と同じでは不合理だ。

一方、米国の大学病院医師のサラリーは年俸制だ。前年に診た患者数や稼いだ治療費が貢献度として翌年の年俸を決める。プロ野球選手の年俸更改と同じシステムだ。有名外科医になれば全米から患者が押しかけてくる。それに伴い年収は米国大統領の年俸を超える。

外科医は技が売り物のプロだ。技はそれぞれの外科医でレベルが違う。それを無理に同じとみなす月給制はプロにはなじまぬ。

勤務体制も問題だ。人手不足のため、手術で徹夜したの翌日の勤務を替わる交代要員がいない。疲労の極に達した外科医は士気失せ、絶望の淵に立ち懐疑に陥る。こうして優れた外科医が辞めていく。これが日本の医師不足だ。

今度の学会で、なり手の少ない日本の外科医の実情を知り、深刻な危機感を覚えた。米国の医学生も苦労の多い外科を敬遠するが、日本ほど深刻ではない。

いま日本の外科勤務医は疲労困憊、病院医療は崩壊寸前にある。政治家や厚労省のトップの人たち、すぐに手を打たねば手遅れになりますぞ。

(出典: デイリースポーツ)

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