初診料に想う

数週間まえから片方の耳が徐々に聞こえ難くなり会話に不便を感じるようになった。耳かきを入れてみると摩擦音ははっきり聞き取れるから鼓膜から脳に至る回路には障害はない。ただちに耳栓症と自己診断し、掛かりつけのファミリードクターのクリニックを訪れた。耳栓症は外耳道の分泌物が乾燥貯留し巨大な耳垢となり外耳道を塞いで難聴を来たした状態である。クリニックで外耳道を洗浄してもらったら大きな耳垢が流れ出て耳は元通りよく聞こえるようになった。

後日送られてきた請求書には初診料125ドル65セント(1ドル110円として1万3800円)、処置料80.62ドル(8870円)と記されていた。初診料のうちの94ドル84セント(75%)、処置料の63ドル57セント(80%)は、すでに老人医療保険から支払われていた。残額併せて47ドル86セントがわたしの自己負担だ。

ファミリードクターは卒後3年間の家庭医学研修を終了した専門医だ。研修中には内科、外科、小児科など各科一般疾患を学び、お産も40例ほど経験し正常分娩の大半を引き受けているプロの家庭医だ。プロだからこそ15分間の外来予約診療に1万4千円もの初診料を請求する。わたしと同業の小児外科医の初診料はその倍ぐらいだが、アメリカンはプロの外科医なのだから当たり前と納得する。米国の医師はぼったくりだと思うなかれ。医師の技術料は約150兆円の総医療費のわずか12%を占めるに過ぎないのだ。

ニッポンの総医療費は32兆円。初診料は定額2千7百円(25ドル)だ。われわれ米国の医師は初診患者1人を15分かけて丁寧に診察し1時間に4人を診て最低6万円の技術料収入を得る。ニッポンでは同じ条件だと1万余円にしかならない。医師の3分間診療を誹るまえに、定額25ドルの初診料は医師のプロ意識をひどく冒涜するものとは思わないか?

(出典: デイリースポーツ 2008年1月24日)

1 thought on “初診料に想う

  1. Ken先生こんにちは。
    まれですが、一回目の再診日前に症状が軽くなっている場合があります。問診と診察に時間をかけて、重病である可能性が少ないことを伝えるだけです。初診料を時給に換算すると骨折り損です。保険制度に問題があるのは同感です。医療費を高騰させる原因かもしれません。
    ところで、この4月から医学的には疑問点の多い健診業界が生まれます。費用は保険者から支払われます。まだ注目されていませんが、法的には06年の成立です。注目されないのはマスコミだけの責任ではありません。日本の医学界のチェックが甘いと思います。チェックを免れたまま企業の競争原理が独走しているように思えます。マスコミがその片棒を担いでいるのに気づいていないのを心配しています。競争が新発見を生めば良いですがどうでしょうか。
    ご指摘の初診料が示すように、医療費の大半は材料費他で医療機関を素通りしているのに、国民感情としては医者が儲けすぎと思う日本の現状は、うまく言いあらわせない何かが欠けているのを示しているように思われます。
    専門外の話で墓穴を掘りたくありませんが、足りないものの一つは、原典が大正時代にさかのぼる、健康保険法の第一章から見直すことかも知れません。これを整備しないと、「混合診療解禁」は掛け声だけに終わるのかもしれません。
    規則は曲げられるためにあるのと同時に、最低限を守るためにもあると思いますので。

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