別居予行の奨め

今年1月中旬、カミさんを大阪に残したまま独りホノルルに戻り2月半の別居生活を体験した。ふたりが離れ離れで暮らすのは初めてのことである。突然の決断をいぶかる友人知人はさては熟年離婚の前触れかと心配してくれたがそんなキナくさい動機ではない。

8年間も毎冬ホノルルで避寒を重ねてくると耐寒性は失われて当然だ。冬を越すには熱産生能力が不可欠だが亜熱帯に慣れたわが身はなかなか起動しない。ハワイ在住の古希にとってニッポンの冬は冷たく寒く辛いのだ。

耐寒性には個人差がある。わがカミさんは「寒いのは全く平気よ。真冬の朝冷たい空気に触れると身も心も引き締まって気持ちがいいわ」とうそぶく。冬が好きだという家内を無理矢理ハワイに連れ帰るわけにはいかぬ。さりとて大阪に留まればメシより好きなゴルフもままならぬ。

古希を過ぎると明日にでも逝く覚悟はあるが独り残ったら辛かろう。今のうちにその予行演習をしておけば衝撃も軽くて済むだろう。この際大阪とハワイでそれぞれ独居体験してみるかという会話が一人歩きし、一時別居が現実したというワケだ。

独り暮らしの我が家がらんとして味気ない。朝起きて米を研ぎ炊飯器をオンにし鍋で味噌汁を作る。昼飯の献立はと考えている間にも時は過ぎ行き気づいてみると早や正午過ぎ。昼は近くのハンバーガー屋で済ませ、さて晩飯はという時点で思考停止。考えても思いつかない間にも、汚れた食器を皿洗い機に入れたり洗濯の終わった衣類をドライヤーに移したり。床にバキュームをかけ終える頃には黄昏迫る。カミさんの1日がこれほど多忙とは知らなんだ。こんな毎日を何万回と重ねて偉ぶりもせぬ世の奥方たちと比べると「めし、風呂、寝る、アレ」だけで空威張りしている亭主なんぞ実態のない幽霊会社みたいなもんですな。体験してみるとよく判りますぞ。

(出典: デイリースポーツ 2009年4月16日)

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