大阪で久しぶりに雑踏の中を歩いてみた。人波をかきわけながら歩くのは何年ぶりのことだろう。歩き疲れて喫茶店にはいり席につくと、ベレー帽にピンクのブラウス、タータンチェックのミニスカートに膝までのハイソックスといチャーミングなウエイトレスが、「何になさいますか?」とうやうやしく尋ねてくれる。「紅茶にして」「どの銘柄にいたしましょう?」「アールグレイはある?」いつも飲んでる銘柄を頼むと「承知いたしました」
「あ、ちょっと待って。ケーキも食べたいからケーキセットに振り替えてくれませんか?ケーキはモンブラン、紅茶はいま頼んだアールグレイでお願いします」「お客さま。まことに申し訳ありませんが、ケーキセットになりますと、お出しできる紅茶はダージリンになってしまうのです」「『しまうのです』といったって、ボクはモンブランとアールグレイが欲しいといってるのだから、『しまわないように』してちょうだい」「それでしたら、モンブランとダージリンのセットとは別に、アールグレイもお持ちしましょうか」「紅茶は二つもいらないよ。アールグレイだけでいい」「困りました。どうしましょう」と泣きそうな顔になる。
「ボクがアールグレイを好きだといってるのだから、ダージリンとアールグレイを入れ替えれば済むことじゃないの。それが客にたいするサービスというものです」「申し訳ありません。でも出来ないのです」
ニッポンのサービス業の底が割れた。客の好みより店のマニュアルを重視する、まるで役所の発想だ。アメリカのサービス業では、客は神様だ。客の好みが何物にも優先する。それがサービス業だ。なぜこの簡単なプリンシプルが守れない?飲みたくもないダージリンを無理やりすすりながら「なんでこんな目に逢わされる!」と腹立つばかり。ベレー帽の彼女、このコラム読んだら判ってね。
(出典: デイリースポーツ)