プレーオフ、廃すべし

いま福岡のホテルでこの稿を書いている。

王監督の率いるソフトバンクは、去年に引き続き、今年もパリーグのペナントを奪取した。リーグの覇者が、プレーオフの結果、2位のロッテに日本シリーズ出場権を奪われたのは、絶対納得できないと地元博多のファンは憤る。まさにその通り。プロ野球ファンとしてこんな不条理は到底納得できない。

監督も選手も、年が明けるとすぐキャンプ、三月の声をきくとオープン戦、そして4月の開幕からの半年間、136試合を真摯に戦った結果、勝者が手中にするのがリーグ優勝の栄光だ。その栄光を、わずか5試合のフロック結末で、2位または3位だったチームに奪われるプレーオフの仕組みとは、一体何のためなのだ。5試合で決着するのなら、半年間136試合は不要ではないのか。プロ野球消滅の前兆のような気がする。

こどもの頃、三原監督率いる西鉄ライオンズと、水原監督の巨人ジャイアンツ間で闘われた日本シリーズ7試合の実況放送を聴いて興奮した。西鉄は3連敗のあと、鉄腕稲尾の4連投で逆転優勝した。スーパーヒーロー稲尾は最終戦で自らホームランをかっ飛ばし、試合の流れを変えた。この日本シリーズには日本中が沸いた。当時、プレーオフというおかしな仕組みは、勿論なかった。日本シリーズは、セパ両リーグのペナントレースを制した真の覇者同士のぶつかり合いだった。だからファンは熱狂したのだ。

プレーオフという制度は、どんな理由ではじまったのか尋ねると、多くの人はアメリカ大リーグのコピーだという。別の少数は、ペナントレース終了後、球団が更なる興行収入を当て込んではじめたことだという。アメリカは米国、ニッポンは日本だ。いずれにせよ、ペナントレースの覇者が、わずか5試合で、その栄光を失うプロ野球に魅力はない。プレーオフ、廃すべし。

(出典: デイリースポーツ)

沖縄の新米ドライバー

沖縄県立中部病院は、若い医師たちが、米国臨床指導医による研修指導が受けられる、国内唯一の研修病院である。その中部病院から、外科研修医を指導する米国臨床指導医として招聘をうけ、沖縄に来て一ヶ月が過ぎた。

沖縄はJRも地下鉄もない島だ。クルマがなければ暮らしていけない。ホノルルを発つまえ、クルマは提供するから、必ず国際免許を持参するよう指示を受けた。ニッポンでクルマを運転する羽目に陥るとは、思いもよらぬことだった。何しろ、1986年以来、19年間も左ハンドルのクルマで道の右側を走ってきたのだ。今となって、道の左で右ハンドルのクルマを運転する自信はまったくない。だが、運転が出来なければ、宿舎から病院までの往復は勿論、生活用品の買い物も不可能と知って覚悟をきめた。

沖縄の新米ドライバーとしてクルマ出勤の初日、大通りに進入する信号のない交差点で左折しようとしたが、車の流れが途切れるのをじっと待っていると、いつまでも動けない。うしろのクルマはしびれを切らして、早くいけとクラクションを鳴らす。今前進すれば、右から来るクルマにブレーキを踏ませることになると判断、じっと動かずにいると、業を煮やした後ろのクルマは、わたしの右側をすり抜け、強引に大通りのクルマの流れに割り込んでいった。

米国では、割り込みによってクルマの流れを妨害するだけで、違反キップだ。衝突事故がおきたら、ニッポンのように進行してきたクルマの前方不注意は問われない。割り込んだクルマの過失になる。

このルールは、相手が人間でも同じ。アイオワ大学病院ERに詰めていたとき、ガードレールをまたいで車道に飛び出し、クルマに跳ねられた人が運ばれてきた。この人は間もなく亡くなったが、ドライバーは無罪放免になった。

交通法規の根本理念は、国によってこれほど違うから怖い。

(出典: デイリースポーツ)

ダークスーツに白のソックス

「20年も前のことですから、センセは多分ご記憶ないとおもいますが、ダークスーツに白のソックスという格好で、この国際学会のレセプションに出席し、『それは農夫のスタイルや』と、お叱りをいただいた○○です」

ことしの6月、カナダで開かれた国際小児外科学会のレセプション会場で、スーツ姿がぴしっときまっている日本紳士からもらった名刺には、Z大学医学部外科教授○○と刷り込んであった。

「ほう、そんなことを申しましたか。それは失礼しました」
「わたしは、センセから直截なご指摘を頂くまで、服装やマナーに頓着せぬ若造でした。お叱りにより、眼からうろこが落ちましたので、いまこうしてお礼を申し上げているのです」
「一面識もない御仁にでも、ずけずけとものを言う悪いクセがあるものですから、無礼の段はお許しください。ところで、ほかにはなんと申し上げたか、ご記憶はありませんか」
「夜のパーティーには、ダークスーツ、白のワイシャツにネクタイ、磨きこんだ黒の短靴、それにスーツと同系色のソックスで決めれば完璧だと言われました。以来、お言葉を忠実に守っております。ありがとうございました」

国際学会の舞台で各国代表の身なりを比較してみると、ニッポンの医者が一番野暮ったい。超高価な世界のトップブランドを身に着けているのに、なぜか貧相にみえる。ダークスーツに白のソックスのような、ミスマッチがその原因だ。センスはもって生まれたもの。おいそれと変えるのは難しい。でも、チャレンジした人たちがいる。

わたしより何世代か前の米国外科教授たちは、研修医を自宅のディナーに招くとき、タキシード着用を求めた。その席上で、いま教授をしている人たちは、社交のマナーや会話の進めかたの常識を教えられた。いまのニッポンには、常識を若者に教える器量のある人間がいない。残念だ。

(出典: デイリースポーツ)

優勝おめでとう、阪神タイガース

沖縄に住み始めて2週間余りが過ぎた。この間、阪神タイガースが優勝、朝青竜が6連勝、宮里藍が日本女子オープンゴルフで初優勝した。

阪神タイガース、優勝おめでとう。トラキチは勝って祝杯、負けたら悔杯、いずれにせよ一杯やって、声の限り六甲おろしを唄えばハッピーだ。甲子園で宿敵巨人を破り、岡田監督の胴上げを目にした今、日本シリーズでも甲子園で勝って、再度、監督の胴上げを見たいものだ。

2週間、茶の間でテレビを見ていて気づいたことがある。NHKはじめ各局のスポーツニュースは、まず、ヤンキースのマツイの成績を報じ、時間が余ればセパ両リーグのゲーム結果を報道するという事実だ。マツイに恨みはないが、ヤンキースがマツイ一人で保っているような報道は、戦時中の大本営発表を思い出させる。

イチローも野茂もメジャーで大記録を達成した。だのに、なぜか、ニッポンのメディアのヒーローはマツイなのだ。解せぬ疑問を複数のプロ野球関係者に問うてみると、野茂もイチローも出身がパリーグだからだという。アメリカンの眼で見ると、この差別はフェアでない。ニッポンのメディアは、前回のオリンピックでも、采配した中畑監督を無視して、長島ニッポンという言葉を作った。こんな作為は気色わるいだけだ。

かつてプロ野球には、国鉄スワローズという万年最下位の弱小球団にいながら、400勝をあげた金田正一投手や、巨人で800本を超えるホームランをかっとばした王貞治選手など、ホンモノの実力を持つスーパースターがいてファンを魅了した。あの頃のスーパースターは、お立ち台に立っても、「チームのみんな」だの「ファンの皆様」だの、卑しい言葉を吐かなかった。今のレポーターは、そんな言葉を求めた仕掛けをする。

冷める一方のプロ野球熱を再加熱するためには、まず、作為的な報道を止めることだ。

(出典: デイリースポーツ)