熟年離婚

ニッポンからのテレビ番組で、いまや流行語となった熟年離婚を論じるのをみた。定年と同時に妻に捨てられる亭主が増えているそうだ。輪をかけるように、来年の春以後の定年離婚では、退職金は夫婦間で均等に折半するよう法律がかわるという。熟妻たちの約半分が、この日が来るのを待っているというから、熟亭どもにとってはただ事でない。番組はあと1年したらどっと増える熟年離婚が社会問題になるだろうと結んだ。

カミサンたちが、長年連れ添った亭主を捨てる決断をする理由が面白い。亭主から「ありがとう」の一言が一度もないというのが理由のトップだ。食事を作っても「美味しい」とも「まずい」ともいわぬ。ヘアスタイルを変えてもドレスを新調しても関心をもたず、なにも言わない鈍感亭主に怒りと嫌悪は蓄積する一方。こんな男は捨てられても仕方がない。

アメリカは夫婦の6割が離婚する離婚王国である。離婚の修羅場を日常的に目にしていると、男も女も悲劇を避ける知恵がうまれる。わたしの先代教授だったボブの家に招かれると、夫人手作りの料理に「ダーリン、これは旨いよ。世界一だ。ケン、ユーもそう思うだろ」と、ウインクしながら賛辞を催促する。これが度重なるとこちらも心得たもので、「ボブ、ユーは世界一ハッピーな亭主でっせ。こんな旨い料理、他では毎日食べられしまへんで」と、上方英語ですかさず相槌をいれてやる。

ボブは結婚記念日や夫人の誕生日には、プレゼント、花束、カードを欠かさず贈る。月に3、4回は夫婦ふたりだけで外で食事をする。結婚式を挙げて以来の何十年間、「アイラブユー」の一言はかならず1日一回。

アメリカの男たちは結婚を維持するため莫大な時間とエネルギー、それに人生の経費としてのカネを遣う。それと比べてニッポンの男たちは努力が足りない。捨てられてからでは手遅れですぞ。

(出典: デイリースポーツ)

花火で占うホノルルの景気

去年のクリスマスには、何年かぶりに、ツリーをたてて灯をともし、七面鳥を焼いた。10キロを超える巨大な鳥を丸ごとオーブンに入れて待つこと8時間、表面がこんがり狐色になると食べごろだ。焼き立てのターキーにナイフをいれ、湯気の立つ白身や赤身を骨から外し、それぞれの皿に取り分けるのは男の仕事だ。

グレービーソースをたっぷりかけたマッシュドポテト、にんじん、サンド豆、とうもろこし、赤カブなどの温菜と一緒に盛り付けたターキーは、真っ赤な色の甘いクランベリーソースで食べると旨い。

数組の親しい友人を招いたクリスマスパーティは夜半過ぎるまで盛り上がった。だが、椰子の葉越しに見える太平洋を背景に、明日のゴルフの相談をするノースリーブやポロシャツ姿を見ていると、クリスマス気分はあせていく。

クリスマスといえば、アイオワで過ごした15年の間、毎年外は零下20度の凍りつくような雪景色、家の中では暖炉で燃える薪が、音をたててはじけていた。樅の生木のクリスマスツリーからは森の香りが漂い、ホワイトクリスマスのメロディを聴きながら、焼きあがるターキーの匂いに心は弾んだ。クリスマスは、やはり、北国にかぎる。

大晦日、今年最後の太陽が水平線に沈むのを待ちかねて爆竹が鳴り、そこここの家の庭から花火が打ち上げられる。今やホノルル名物となった家庭用の打ち上げ花火は100メートルほどしか上がらないが、それでもドン、シュッ、パッと本格的な順を踏む。打ち上げ花火のセットは8千ドル(約100万円)もするという。常人は手が出せないどころか、100万円を一晩で煙にするほどアホでもない。それでも我が家の町内には、100万円位痛くも痒くもない御大尽が何人も住んでいる。お蔭で100万円の打ち上げ花火を間近で見せてもらった。花火の数で景気を占ってみると、今年は確実に回復に向かっているようだ。

(出典: デイリースポーツ)

見た目だけの文化の国

年末に、12年間一度もバレずに偽医者をやり通した男が捕まった。診てもらった患者や、回りの人が不審に思わなかったのは、この男がホンモノの医者以上に医者らしく見えたからだ。裏を返すと、偽者が医者になりすましても見破れないほど、いまの医療はいい加減だということか?

ニッポンでは、患者は医者に診てもらっても、自分の病気について医者にしつこく問い詰めたりしない。だから医学知識のない偽医者でも勤まるのだろう。アメリカでは、医師の出身大学、医師資格、専門領域、専門医資格、研究分野から発表論文まで、あらゆる情報はインターネット上に開示されている。患者は医者が何者であるかを十分知ったうえで、受診の予約をとる。診察室に入ると、病気の本態は?手術以外の治療は?手術の方法は?今まで何人の手術をしたか?成功の確率は?これから先の人生への影響は?と質問攻め。わたしが仮に偽医者であれば、このやりとりでたちどころにボロがでる。

暮まで3ヶ月の沖縄滞在中、テレビ番組で児童誘拐犯罪の専門家と紹介された人が、「誘拐防止のためには、こども達に、不審な人を見かけたらよく注意するよう、しっかり教えることが大切だとおもいます」と結ぶのを聞いてあきれた。こんな無責任なセリフは、シロウトのわたしでも、恥ずかしくて口にできない。犯罪防止手段を提示し、それぞれの是非を論じて解説するのが、クロウトというものではないのか。

アメリカンの眼からみると、ニッポンのテレビに出てくる医療や児童犯罪その他の“専門家”たちには、見た目はそれらしく振舞っているが、問題点の把握と具体的解決策の提示を行わず、情緒的抽象論に終始する共通点がある。これでは専門家ではなくて評論家だ。

冒頭の偽医者も、人を見た目で判断する文化のニッポン社会だったから、12年も続けられたのだろう。

(出典: デイリースポーツ)

名球会

名球会は、セパ両リーグそれにメージャーリーグで投手なら通算200勝、打者なら2000本安打を打った選手に限って入会を許すという、栄誉ある男たちの集団だ。名球会のメンバーとその家族は、毎年12月中旬になるとホノルルに集い、ゴルフやパーティで旧交を温めるのが恒例である。今年も12月16日、ホノルルカントリークラブでゴルフコンペのあと、ロイヤルハワイアンホテルで晩餐会を催した。今回も金田正一会長の特別な計らいによって、数少ない招待客のリストに加えてもらい、ゴルフとそれに続く晩餐会をエンジョイした。

200勝または2000本安打と口で言うのは易しいが、誰にでも出来ることではない。まず第一、余人の持たぬ、並外れた才能が要る。怪我や故障を避け、健康管理には人一倍注意を払い、一ゲームでも多くの試合に出場する機会をつくらねば、達成の見込みはない。齢30も半ばを過ぎると、体力の下降に加え気力に衰えがくる。30年前、王選手が引退に際し「まだホームランを打つ体力はあるが、気力が衰えたから現役を退く」といった言葉は、今でも強く記憶に残る。

その王さんや、400勝の金田さん、飛び入り参加のバレンタイン監督と同じテーブルに座りあたりを見回すと、稲尾投手や衣笠選手など、往年のスタープレーヤーたちがずらりと並んでいる。栄冠に輝いたこの人たちが辿ってきた途には、それぞれに独特の歴史がある。一人ひとりが「プロジェクトX」を背負ってきたようなものだ。

いまや世間は熟年の時代である。この層の厚い熟年世代は、名球会の名選手のプレーに一喜一憂しながら育ってきた。テレビも熟年世代の視聴率を無視できない今、名球会のメンバーを一人づつインタビューし、在りし日の名場面を織り交ぜて放映するという企画、いいと思うが、どこかの局で取り上げてくれないものか。

(出典: デイリースポーツ)

いらちの大阪人

3ヶ月続いた沖縄暮らしも終りに近づいた先週末、ニッポン列島をカバーした寒波のせいで、南国沖縄にも予期せぬ冬が訪れた。暖房のない部屋のなかでは、厚着していても寒さに震える。これは堪らぬ、早く暖かいハワイに逃げて帰ろうと、大阪行きの全日空機に跳び乗った。

大阪行きの便に乗ると、他の空港にない体験をする。「飛行機がゲートに到着して完全に停まるまで、シートベルトは締めたまま、お席をおたちにならないようお願いします」という客室乗務員のアナウンスもものかわ、まだかなりのスピードで動いている機内で、早くもカチカチとシートベルトのバックルをはずす音がする。動く機内の通路に立ち上がり、頭上の収納庫から荷物を下ろし始める者もいる。なんといういらち人間。

おっさん、おばはん、そないにいらいらして、どないしまんねん?

「お席を立たないでください」という再三の機内放送など何処吹く風。所定の場所に機が停まり、ジェットウエイが伸びてきてドアが開くと、今度は、われ先に外に出ようと押し合いへし合い。収納庫から荷物をおろしている後ろをすり抜けて、前へ突進しかける若い女性に、「ちょっとあんた、飛行機から降りるときには、前から順番という決まりを知らないの」といってやったら、「あ、そうなんや」と、とぼけた返事が返ってきた。

ようやく機から脱出してロビーに出てみると、こんどは一団となり、建物の出口にむかって一目散に駆けていく姿が目にはいる。空港バスに乗り遅れると、次のバスまでの30分近くを、寒風吹きさらすなか、行列をつくって待たねばならぬ。それを嫌って、ゲートから出口までを全力疾走するのだという。

「大阪人はなんでも先々考えて行動するのが特徴でんな」浪速の友に水を向けると、「そうやおまへん。いらちは、みーんな他所もんでんがな」だと。あきれた。

(出典: デイリースポーツ)